▽「キャロル」
その世界にあまりにも思いきりどっぷりと、浸れたものだから、私がもちうる情感が、その世界のなかでひたひたになって、映画が終わって席を立とうとしても、身体がなかなか動かなかった。
キャロル。久しぶりに、圧倒的に美しく、せつない恋愛映画を観た。
音楽、映像、少ないけれども選び抜かれたセリフ、衣装、そしてストーリー、ぜんぶがぜんぶ好み。
胸が何度熱くなったことだろう。
そうだった。人を好きになるのって、こういうことだった。
それはほんとうに、もう、たまらなく、
「生」を感じるものだった。
絶対恋愛のあの感覚は、こころの底から「生」を肯定したくなる、そういうものだった。
出逢いのシーンに、雷にうたれたようになり、はじめてのふたりの性愛のシーンでは、お互いが愛しくてたまらない欲しくてたまらない、そのようすが、あまりにも見事に表現されていたから、泣けてきた。
性愛シーンと涙という組み合わせ、私にもあまりなじみがないから自分でも驚いた。
誰かをすっごく好きになると、すっごく傷つくことも、もれなくついてくるけれど、私はやはり、この世界から離れたくない。
そんなことを確認して、いろんなことに考えを泳がせて、映画のいくつかのシーンを思い出して、また胸が熱くなって、やはりもう一度映画館でこの作品を観たいと思う。
生活に役立つわけでもない、前向きに生きるお手軽なヒントがあるわけじゃない、ビジネスで使える何かがあるわけじゃない。
でも、ほんとうに私、この映画で強く強く「生」を感じた。
これがきっと芸術の力。
本質の部分で、命を支えるものなのだと思う。