◎愛を読むひと◎
2016/10/20
「朗読者」は好きな本で、映画化されると知ったときは嬉しくて、さいきん、そのタイトルが「愛を読むひと」で、監督と脚本が、あの「めぐりあう時間たち」と同じと知って、ぞくりとした。
美しい映画だった。
とちゅう、正義について激しく語る学生が出てきて(主人公ではない)、そのとき強く、「ああ、この子の気持分かる、私にもあった、そういうときが」と思い、自分が年齢を重ねたことを実感した。
そうなのよ、ほんとうに、あなたの言う通りなの、でも人間って、こんなに愚かしかったり、状況に弱かったり、慣れるのが得意だったり、無感覚に身を委ねるのが好きだったりする、そういう生き物なのよ。
だから、すこしだけあとからみれば「なぜあのようなことを」と絶句し、嘔吐するようなそんなことを、これからもしてゆくと思うの。
それでも時折、許しがあったり、慈悲があったり、見えないほどに小さかったりするけれど愛があったりするから、すくわれるの。
「こんな世界、生きる価値があるのか」と思ったときもあったけど、問題はそこにはなかった。生きる価値があるかどうかの問題ではなく、とにかく、生きなければならないのよ、このところはそのように思うの。
激しく雨が降る軽井沢で、濡れそぼる木々の葉を眺めながら、映画のなかの、あの学生にひたすら語りかける、ひたるのが大好きな女となっている。