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▽ティファニーで朝食を(「映画音楽と物語」より)

2017/02/20

 

 ニューヨーク五番街、ティファニーの前でタクシーを降りるリトルブラックドレスの華奢な美女。彼女はショーウインドウの前でデニッシュとコーヒーの朝食をとる。

 ムーン・リバーのメロディのなかのこの印象的なシーンから始まる1961年のアメリカ映画。

 原作者のカポーティーの希望でマリリン・モンローに出演交渉がありましたが、原作ではヒロインのホリーは高級娼婦という設定だったので、マリリンがこれを断り、オードリー・ヘップバーンになりました。

 オードリーになったことで、ホリーは高級娼婦ではなく、何をして生計をたてているのかミステリアスな都会の、孤独で自由な女性となりました。ジバンシーの衣装に身を包んだオードリーは、とにかく魅力的で、ストリーなどわからなくても、ただ彼女の姿を見ているだけでうっとりとさせられます。

 この映画はとにかくファーストシーンとラストシーンにそのテーマが集約されています。

 ファーストシーン、ヒロインのホリーがジョージ・ペパード演じるポールという青年と出会うシーン。ホリーはネコを飼っているのですが、飼いネコに名前をつけていなくて「ネコ」と呼んでいます。その理由を説明するところからのふたりのやりとり。

「私にはネコに名前をつける権利がないの。私たち、お互いに所有しあわないの。どちらのものでもないの。私、私自身と私の持ち物が一緒に落ち着ける場所が見つかるまで何も所有したくないの。それがどこにあるのかわからないけど、それがどんなところなのかはわかるわ。ティファニーみたいなところよ」

「ティファニー? あの宝石店の?」

「そうよ、私、ティファニーに夢中なの。ねえ、レッドな気分のときってあるでしょ?」

「レッドな気分? ブルーな気分みたいに?」

「ブルーとは違うわ。ブルーって太っちゃったときとか雨がなかなかやまないときみたいな、ただ悲しい、っていうそういう気分でしょ。でもレッドな気分はひどいものなの。突然、こわくなるの。でも何が怖いのかがわからない。そんな気分になったことない?」

「あるよ、それを不安と呼ぶ人もいる」

「もし、そんな気分になったらタクシーに飛び乗ってティファニーに行くの。すぐに気分がよくなる。静かで高貴なところよ。あそこには不幸なんてないの。もしティファニーのような気分になれるところに住めたら、家具を買ってネコにも名前をつけるの」

 ネコとでさえ、お互いに所有しあわない、自由であることを望むホリーは「自由」であろうとするあまり、大切なことを見失いそうになっています。
 互いに惹かれあうホリーとポール、自分の気持ちを先に口にしたのはポールでした。

 ラストシーン。タクシーの中の会話。映画のなかでも、もっとも緊張感に満ちたシーンです。

「君を愛している、君はぼくのものだ」

「人は誰かのものになんてならないわ、誰かに所有されたりしないの。誰も私を檻の中にいれられないのよ」

「僕は君を檻に入れたいなんて思わない。ただ君を愛したいんだ。人は愛するものだ。人はお互いに所有しあい、お互いのものであるべきだ。

それが本当に幸せになれる唯一の道だ。君は自分のことを自由な精神をもっていると言い、奔放だと言い、本能のまま生きていると言い、そして強烈に、誰かに檻に入れられることを恐れている。 でも君はすでに自分自身でつくりあげた檻の中にいる。だからどこにむかって走っていったって、自分自身の中の檻の壁にぶつかるだけなんだよ」

 このポールの言葉は、自由をもとめるあまりに束縛を恐れて、人を愛することができなくなっているホリーの心をとかし、ハッピーエンドとなります。

 これからお届けする「ムーン・リバー」は、オードリー演じるホリーがマンションの非常階段でギター片手に歌う歌です。彼女の孤独と素朴な姿を表現した美しいシーン。英語のままお届けしますが、ムーン・リバーというのは作詞家ジョニー・マーサーの故郷に実在する川。故郷と、幼馴染みへのノスタルジーが歌われています。

~ムーン・リバー、一マイルより広い川。私は川をかっこよく渡ってみせる、いつの日か。夢をくれたり、傷つけたり、あなたがどこへ行こうと、私も一緒に行くわ。ふたりの流れ者が、世界を探しに出かける。たくさんの見るべき世界があるから。私たちは同じ虹の終わりを追ってるの。川が曲がりくねっている所で待っている。私のハックルベリー・フレンド(懐かしい友)よ。ムーン・リバーと私~

♪作曲ヘンリー・マンシーニ 作詞ジョニー・マーサー「ムーン・リバー」をお聴きください。

★2016年12月21日「語りと歌のコンサート~映画音楽と物語」台本より。

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