▽映画 ブログ「言葉美術館」

▽花様年華

 

 公開中の『メットガラ』、芸術監督がウォン・カーウァイで、彼の映画『花様年華』の衣装が最高に美しい!と絶賛する人々のコメントから、観直したいなあ、とは思っていたけれど、いまは原稿を書かなければ、と自粛していて、でも原稿がぜんぜんのらなくて、逃避の『花様年華』。

 マギー・チャンのチャイナドレスが美しすぎて、彼女の立ち振る舞いも美しすぎて、うっとりとして、私は自らを省みて、猛省した。
 そして相手役のトニー・レオン。やっぱり私は彼を愛す。男の色気って彼のためにある言葉なんじゃないかな。ほとんどがスーツ姿というのも、たまらない。

 お互いに結婚しているふたりの恋愛がテーマなんだけど、性愛のシーンはまったくない。なのに、このむせかえるようなエロティシズムはいったい。視線の絡みあいと、湿度の高いなかで絡まりあう匂い、ふたりの欲望がスーツとチャイナドレスの周囲をとぐろを巻いて絡まりあっている。そう、全部絡まりあっている。息苦しいほどに。

 1960年代という時代のレトロ感が好きなこともある。そして私はやはり、この映画全体に漂うエロティシズムが好きなのだと、あらためて思った。それは実際の性愛行為には、ぜったいにないものだ。

 花様年華って、咲き誇る花のように、人生のもっとも美しい時期。この映画のふたりは30前後だろう。そう、そのころがもっとも美しいのかもしれない。この場合の美しさは外見の美しさであり、万人が絶賛する美だ。私はその時期をずっと前に過ぎた。もう、こんなチャイナドレスは着られない。体のラインが完璧でないと許されないドレス。

 久しぶりに失われた若さを嘆いた。

 こころに響いた言葉は、「過去は観るだけで、ふれることはできない」。それからもうひとつ。「苦しいほどに悲しい」。

 『花様年華』、これは人生のもっとも美しい時期を描いているのではない。それだけではない。男と女の、もっとも美しい時期を描いている。つまり、恋のはじまり。そして、成就しない恋。満たされるほどに一緒にいることがかなわない、そういう状況だけがもたらす、恋の花様年華。

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