◎引き裂かれた女◎
2016/10/21
久々に好みの映画を観た。
監督がクロード・シャブロル、ヒロインにリュディヴィーヌ・サニエ、相手役にブノワ・マジメルが出ているというだけで魅力的なのに、
「愛を追いかけ、愛しすぎて狂っていくヒロインのサスペンスフルな恋愛劇」
とあるので、どうしても観たかった。
愛しすぎて狂ってゆく、とは私にはどうしても思えなかった。
ヒロインのとる行動のひとつひとつが、とても当たり前で、つまり強く同調できたからだ。
彼女は恋をしているだけなのだ。
何人かの人々の生活、人生の決定的な瞬間が描かれ、ヒロインである姪が失恋ゆえ死にそうに衰弱してゆく姿に
「生きてゆくってことは大変なことなんだ」
と言う伯父のセリフが胸にしみた。
そこには恋愛を人生の中心としてとらえることをひるまない、まなざしがあった。
成熟していていつくしみをもちあわせている人間にしかない、まなざし。
映画はどこまでも詩的で美しく、いくつかの異なる恋愛観がくっきりと描かれていて、のめりこめた。
ラストシーンは完璧だった。
ヒロインの唯一の、ひとすじの涙に、自分の涙を重ねた。