▽映画 ◎Tango アルゼンチンタンゴ ブログ「言葉美術館」 私のタンゴライフ

◾︎人生は続く

2023/09/10

 

 

  私の2018年は、たったひとつの単語、固有名詞がすべてだった。

  そことつながるかたちでのブエノスアイレスの旅、「私のブエノスアイレス」を書けたこと。

 そして、愛されたこと。その色彩はちがっても、それぞれに、私が真実だと感じられる愛をこんなに受けた年は、そうないのではないか、と思う。

  生き続けてみるものね、とこころの底から声が出る。

  それなりの苦しい経験をしてきたからわかることがある。

  それは、いまある、しあわせな時間が当たり前のものではないということ。愛するひとたちが幸福で、愛するひとたちと時間を共有できるということは、むしろ奇跡的な贈り物。気づけばつねにそんなふうに思うようになっていた。

  数週間前に観た映画、「ミス・ブルターニュの恋」。

  大好きなカトリーヌ・ドヌーブ主演ということだけで観たのだけれど、もしかしたら私の今年のベスト3に入るかもしれない。

  原題は「Elle s’en va」。彼女は今いる場所を離れて、ってそんな意味。

  2013年公開。当時ドヌーブは70歳。

 ドヌーブ演じるベティという名の60代半ばくらいの女性が主人公。フランス田舎町の小さなレストランをきりもりしている。90代の口うるさい母親と同居。夫は浮気中に食べ物を喉に詰まらせて亡くなっていて一人娘とも疎遠。愛人がいたけれどその愛人も若い女性に走ってしまう。

 もうなにもかもいや、ってある日、レストランを抜け出し車を走らせる。ずっと禁煙していたけれどタバコが無性に吸いたくなり、どこかで買えないかと探すけれど、日曜日でお店が休みだったりして、なかなか手に入らない。タバコをもとめて、車を走らせるうち遠くまできて、そこから色々物語が展開するのだけれど、やっぱりこういう価値観に支えられた物語、私、好き。

  人生なんてこんなものよね、でも、やっぱり、こんなもの、ってかんじだけでは生きたくないのよね、何歳になっても愛したいし愛されたいのよね、だめだめ人間で、悪い? だいたい、何をもって良い悪いとかジャッジするわけ、あんた。

  そんな価値観に支えられた物語。

  現代日本では悪そのもの的な扱いをされているタバコという嗜好品がもたらす、スモーカー同士にしか味わえないコミュニケーションとか、飲みすぎて気づいたら40歳くらい年下の男の子とベッドにいてびっくりとか、同年齢の男性とめぐりあって、夜をともにした翌朝、互いの好きなこと嫌いなことを伝え合うシーンもよかったな。そこにはたしかに恋の始まりがあった。

  そしてラストシーン、少年が叫ぶ「人生は続く!」という言葉に胸をきゅーんとうたれた。

  人生は続く。ほんとうにそう思う。

  人生は続く。しみじみと思う。

  12月8日、FM横浜にラジオ出演して、それを聞いてくれたお友達、彼とはもう25年以上のつきあいなんだけど、彼は私のおしゃべりを褒めてくれた後、こう言った。

  ……なんか、人生、終わりなき旅だね。

  そのラジオでは、私のライフワーク的なテーマだったり、書くということについてだったりをしゃべったから、きっと、これまでの私が歩いてきた道に思いをめぐらせて、そんなふうに言ったのだと思う。

  ちょうどドヌーブの映画を観た後だったこともあり、心に沁みた。

  昨日は今年最後のタンゴを踊った。

  等々力渓谷の近くのミロンガ会場で。

  今日は脚がめちゃくちゃ痛くなってもいい、って思いながらヘアメイク、ネイル、そして赤いドレスを着た。

  重厚な感慨がおりてきた。

  これから過ごす時間にわくわくしながら、こんなふうに支度をする時間が私はたまらなく好きなのだと。

  ものすごい熱気のなか、たくさんの人たちと踊った。

  たけし先生の選曲は最高だった。

  そして、いつも踊ってくれるひとたちが、踊り終わったあと、私と同じ想いの言葉をかけてくれたことにも胸が熱くなった。

  余韻に浸りながら大晦日を過ごしている。

  人生は続く。

  そして、今この瞬間は言える。

  人生は美しい。

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