ゆかいな仲間たち よいこの映画時間

◎70本目『綴り字のシーズン』


【あらすじ】

 理想的に見える四人家族の物語。
 難しい単語のつづりを正確に言い当てるという才能に目覚めた11歳の少女イライザは、熱狂的な大会として知られるスペリング・コンテストの地区大会を勝ち進み、宗教学者の父親ソールは娘の才能を伸ばすことに熱中します。
 一方で、悩みを抱えた息子は宗教に救いを求め、そして妻はトラウマから奇行に走り、家族に亀裂が生じてゆく。それぞれに精神的な救いを求めて、もがいている様子がきめこまかく描かれています。

 

路子
路子
2005年の作品だから、ジュリエット・ビノシュが41歳頃の作品。ちょうど40代が始まった頃のビノシュ。
ネットの感想を見ると、娘のイライザ(フローラ・クロス)が綴り字コンテストに出場したことで、家族は壊れたと言っている人が多かったですが、元々壊れかけているんですよね。
ミリアム(イライザの母/ジュリエット・ビノシュ)は両親の事故のことがずっとトラウマになっているし、ソール(イライザの父/リチャード・ギア)の偏った家族との関わり方もあるし、とにかくみんな問題を抱えている登場人物ばかり。
そして家族全体に、ソールのスピリチュアル的な話が影響を与えている感じでした。
りきマルソー
りきマルソー
例えばカバラ(ユダヤ教の神秘主義)の教えである「ティクン・オラム」という、壊れた世界を修復するという意味の言葉が出てきましたが、ミリアムの頭の中に残っていたからこそ、自分なりに修復を試みていたんですよね。
まあ、ソールの言葉は良くも悪くもって感じですけどね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
この映画って難しいのよね。
ソールはカバラの教えを研究している人だけれど、妻イライザ、娘のミリアムは、スピリチュアル的な才能があるということよね?
ミリアムがイライザに単語の綴りの覚え方を聞いた時、「イメージをすると単語を読む声が別の誰かの声に変わって、その単語が形になって見えてくる」と、言っていたけれど、それって、そういうことよね?
私はスピリチュアルというよりは、言葉というものに対して、直感的な何かを持っていたんじゃないかなって思っていました。
映画的にはもちろん映像として、言葉が夢のようには出てきていましたけど…。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
娘のイライザからその話を聞いた時、ミリアムは不穏な顔をしていたでしょう?
自分にもその能力があるけれど、その能力は自分を幸せにしていない能力で、それが遺伝として娘に出てしまった、と思ったからじゃないかな、って思ったの。
そういった部分は、映画の中で触れられていなかったですよね。
そのミリアムの表情は私も気になりました。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
ソールがカバラの研究をしている上で、神に近づくということを試みてはみたけれど、自分は到達できなかった。けれど娘のイライザはホテルでの特訓の時に痙攣してしまって。それって到達できたということでしょう? やっぱり神秘的な何かしらの能力があるんだと思う。

 

路子
路子
メインテーマは家族。
周りから見れば完璧な家族だけれど、実はみんなそれぞれに何かしらの不幸せを抱えている。
ソールはカバラを研究をしているけれど、その教えを実生活で活かしていない。家族を支配しているの。そして自分が支配者であることに気付いていないのよね。
態度の変わり方もすごいですよね。
あんなに息子にビシビシ教育をしていたのに、娘の才能に気づいたとたん、いっさい息子に興味を示さなくなりますもんね。
ソールのその態度って、無意識でしていることだとしたら、本当に怖いですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
無意識なのよ。自分のことしか考えていない感じ。
料理後の片付けを、人任せにしていても平気でいるというところは、彼のひとつの象徴だと思う。
路子
路子
ミリアムは、子どもたちに対して割と淡白よね。
なのに、なんで子どもたちはあんなに立派なの?
親ふたりの方がよっぽど壊れてる。
逆にですかね。親がそんなだから。
兄妹で話している時は、ふたりとも大人っぽいですよね。お互いを支え合っている感じがします。
それぞれ兄妹が階段の上から覗いているシーン…妹が階下の兄を覗いているシーンと、逆に兄が妹を覗いているシーンがありましたけど、お互いを心配しているのが感じられるシーンでしたね。
りきマルソー
りきマルソー

 

路子
路子
ミリアムの盗んだものを収集する行動は、トラウマだけが問題?
相当心が壊れていたということなのかな。
何度も両親の事故に関するフラッシュバックが頭の中をよぎっていましたよね。だから、かなりの心のダメージを受けていたんだと思いますよ。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
きれいなものやキラキラしたものをコレクションするだけなら分かる。お金がある人だから、買って手に入れることも出来るはずなのに、盗みに入るという行動をするのは、どうしてなんだろう。
家族や自分の再構築が重要だから、それを成し遂げるための行動のひとつぐらいにしか思っていないですよね。大したことだと思っていないような気がします。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
悪いことをすることで、自分を罰したいのかしら。止めて欲しいとか、気付いて欲しいという気持ちなのかな。
そういう気持ちはあったかもしれないですね。
でも、ミリアムもソールに対して、違和感を持っていた気がするんですよね。
「あなたは話好きだった。でもハートから出てくる言葉じゃなかった。話は次から次へ続いたけど空っぽの言葉ばかり」なんて言っていましたし。
そう思っていたからこそ、ソールに頼らずに自分で…。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
修復を試みたのかもしれないね。
そういうことって学者にありがちなのかしらね。
研究に没頭するが故にってことですか?
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
素晴らしいことは言うけれど、現実との向き合い方を知らないみたいな…自分の描いた世界でしか生きていない感じ。だから、そこで妻がちょっとおかしくなっても、子どもたちがさびしい想いをしていても感じられない人。一種の性格的な障害みたいなものかもしれないね。

 

路子
路子
最後にわざと綴りを間違えたというのが、ひとつの大きな象徴ね。
もし、あそこで正しい綴りを言っていたら、ソールは何も変わらなかったですよね。家族の再出発みたいなものを感じますよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
イライザはあの歳で、そこまで考えられるものかしら。
もうちょっと直感的なものが…。
スピリチュアルというところに引っかかっているのはそこなんですよ!
やっぱりイライザはスピリチュアル云々ではなく、言葉や行動に直感的な何かを持っていたような気がするんですよね。だからこそ、自分の知っている単語をわざと間違えることで、家族がやり直せると思ったのかなって。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
前日におさらいをした単語だったけれど、目をつぶって文字を辿っているし、鳥がスペルを教えてくれている映像を思い浮かべているから、記憶ではないんだなって私は思った。
でもそこで違うスペルを言って優勝しない方がいいと判断した。それは直感なのかぁ。
イライザは、家族が壊れ始めているというのをずっと感じ取っているんですよね。父親がずっとお兄ちゃんの方ばかりに目をかけていることに、ずっとモヤモヤした気持ちは抱いていたとは思いますが、いよいよ家族全体が壊れるところまで来てしまったことに危機感を持った。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そう思ったから、ちょっと揺さぶってみようと思ったのかもしれないね。
ソールもイライザがわざと間違えたことに気付いたからこそ、あんな風に泣いていたのかな。

 
 

路子
路子
妻ミリアムは夫ソールに対して、もう愛情は感じてないと思う?
ソールの方がミリアムを好きって思っているような気がしたのだけれど。

ソールがミリアムを求めるシーンがありましたよね。「悪いけど疲れてるの」って断るシーン。
でも、ミリアムがソールを求めるシーンもありましたよね?
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
あった。
ミリアムが盗みに行こうとして、玄関の扉で考えているシーン。
ソールの元に戻って「愛してるわ 私を抱いて」と、言ってから、あっという間に終わる。めちゃくちゃ短いの。本当にあっという間。ミリアムは快楽を求めているわけではないから、顔も虚ろだなって思っているうちに終わってた。
時系列的にカットされているのかもしれないけれど。
そこはノーマークでした。いつもはそういうシーンで引っ掛かるけれど、今日は無意識にそこじゃないって思ってたのかもしれない(笑)。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
私も本当は分かってる!(笑)。
だめね。瑣末なことばかり気になっちゃって。自分にがっかり。
路子
路子
でも、この映画、私は好き。

 

~今回の映画~
『綴り字のシーズン』 2005年 アメリカ
監督:スコット・マクギー/デヴィッド・シーゲル
出演:リチャード・ギア/ジュリエット・ビノシュ/フローラ・クロス/マックス・ミンゲラ

-ゆかいな仲間たち, よいこの映画時間