ゆかいな仲間たち よいこの映画時間

◎21本目 「ナチュラルウーマン」

皆様、ご無沙汰しております。
ご機嫌いかがでしょうか。
しばらく冬眠していた「よいこの映画時間」の私たちですが、春の幕開けと共に復活致します。

「よいこの映画時間」 第2幕を飾る最初の1本は、トランスジェンダーの女性を主人公にした「ナチュラルウーマン」です。
まだ公開中ですので、ネタバレ覚悟でご覧下さいませ。


み:やっぱり映画館で観る映画は良いわね。家でDVDを観るのとは違う。家だと気軽にiPadで観たり、Amazonプライムで観る事は出来るけれど、集中力が全然違う。

り:全然違いますね。家で観てると、ちょっと途切れちゃったり、気が散ったりする時もありますし。

み:最近は映画館で観たりしていたのかしら?

り:「シェイプ・オブ・ウォーター」を観ました。

み:どういう作品?

り:今年のアカデミー賞を受賞した作品で、半魚人と喋る事の出来ない女の人の話です。

み:不思議な話が受賞したのね。良かった?

り:アメリカの作品にしては、ジメジメとした雰囲気がありました。勿論アメリカ的要素はあり、終わり方もハッピーエンドなのですが、少しモヤモヤとする感じで終ります。なので思っていたよりも、好印象でした。最近のアカデミー賞は、マイノリティを扱う作品が多いような気がします。昨年も「ムーンライト」でゲイが扱われていたし、今回も喋ることが出来ない人物や、特異ではあるけれど半魚人も出てくる。

み:トランプ政権に対しての芸術界の反発なのかしら?

り:そういうのもあるんですかね。

み:私は年末に「ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ」を観たの。あれはとても良かった。DVDではちょこちょこ観てはいるけれど、映画館で最後に観たのはそれくらいかしら。久しぶりに映画館で座らされて、集中したの。ずっと映画館に行っていなかったし、何となく集中したかった。今日映画館で観て、やっぱり映画館で観るとこんなに違うんだっていうのも分かった。そして今日の映画も本当に良かった。

映画ってつくづく非日常だと思うの。この非日常は「ファンタスティック」という意味ではなく、今自分が日々行なっている細々とした事や、ちょっとした悩みとは違う別世界の事。それを観せられた感じ。もちろん国も違うし、言葉も違う。そういう非日常を集中して目の当たりにして、その世界と対峙する事で、こんなに自分の中に大きな余白が生まれて、俯瞰できるんだなって感じたの。映画の良さを語る会みたいになってしまったわ。

り:(笑)

み:もっとこうぶっ飛んでしまっても良いのかなって。もっと自分に忠実に生きても良いのかもって思った。

り:周りからしてみればきっと大迷惑かもしれませんけど(笑)

み:そうですか? ありゃー(笑)

り:でも何となく分かります。まだやるの?って思われるかもしれないけれど。


み:あのまなざしに射抜かれてしまって。

り:自分はゲイだし、マイノリティとして扱われるので、彼女と近しい存在ではあると思うんです。だからこそ彼女が経験してきた事は、今後自分も経験する可能性があるような気がするんです。例えば家族じゃないと面会出来ないとか、パートナーの葬式に出ないでくれって言われたりだとか。そう言われる可能性はとても高い。そういうのをダニエラ・ヴェガが演じるマリーナの目線を通して観ていたから、ずっと苦しかったです。彼女に起こる事は自分にも起こる事という目で観ていましたから。

み:愛人とかも一緒よ。女であっても、妻ではないから何も出来ない。病院の手続きも出来ないし、葬儀への参列も拒否される。だから私にも十分起こり得る事なのよ。どんなに愛していても、どんなに大切でも、そんなものは関係なくなる。愛情がどれだけあったかは関係ない。

り:簡単にぶち壊されますもんね。

み:法の下という理由でね。

み:結局マリーナがきっかけで、フランシスコ・レジェス演じるオルランドは奥さんと別れたのよね?

り:そうですよね。

み:だから奥さんもマリーナに対して恨みは抱いているだろうから、可哀想だなとは思いますよ。駐車場のシーンで、奥さんがマリーナに対して「オルランドとは”ノーマル“な夫婦だった。事情を説明されて変態だと思った。目の前のあなたが理解できない。神話のキマイラ(怪物)みたい」って言っていたけれど、ああいう神経を持った人がほとんどなのよね。あれがマジョリティ。

り:最近はテレビなどでもトランスジェンダーの人が出演していたり、題材にされたりしているので、少しずつ理解は増えてきているけれど、やっぱり分からなかったり知らない人の方がまだまだ多いですよね。

み:分からないと思っている人も、テレビに出ているような人なら想像出来る。でも日常生活にそういった人達が現れた時に、テレビの中の人は許せても、目の前に現れた人は許せないっていうのはあるかもしれないわね。

り:実際は個々の人物で違うのに、皆が皆テレビに出てる人と同じ考えをしているって思っている人が多い。だからこそテレビと現実世界に差が生まれてしまったりしてしまうんですよね。良くも悪くもメディアの力というものを感じます。

み:私、今丁度、中山可穂の小説を読み直しているの。彼女のセクシュアリティはレズビアンで、それを公言して書き始めてバッシングを受けた時期もあるらしいの。
彼女の作品で王寺ミチル三部作の完結編に「愛の国」という作品があるの。日本が愛国党というのに支配されてナチ政権のようになり、同性愛者禁止法によって同性愛者は収容所にぶち込まれていく中、レジスタンスの人が戦っていくという話。その本のあとがきには、ロシアでも「同性愛宣言禁止法(未成年に対して公の場で、ゲイなどの「非伝統的な性的関係」を知らしめる行為を禁止する法律。2013年制定。)」が成立したし、本に描かれている事は架空の話ではなくて誰にでも起こり得るって書いてあった。
そういうのを読んだばかりの時に、「ナチュラルウーマン」ってそういう話なんだな程度で、予告編もとても綺麗だったから、余計に私も入り込み方が激しかった。

り:マイノリティに対するそういった発言って、本人達は無意識に言っているんですよね。恐らく無意識。

み:意識なんかしていないと思う。無邪気に言っている。そういうのが一番怖いわね。そういう人達がマジョリティだから、考え方が悪くなっていくんでしょう?

り:それがいわゆる「普通」っていうやつですよね。

み:ちょっと待って…って考える思考回路をあまり持たないのよね。

り:思ったらすぐ言っちゃう。

み:そしてあんまりそこに疑問も持たない。

り:疑問も無いし、理解しようという気持ちがあまり無い。もちろん映画の中では奥さんは旦那さんを取られたからっていうのはあるけれど。

み:それにしてもね。

り:息子もそうなのかな。お父さんを取られたみたいな気持ち?

み:でもお父さんが愛した人よ?…という発想がきっと無いのね。

り:特異なケースではありますよね。旦那さんがいわゆる女性に取られてしまったという訳では無いので。

み:かなり。

り:例えばそれがトランスジェンダーではなく女性であっても、奥さんは同じ態度を取ると思いますか?

み:修羅場はあると思う。でもやっぱり。

り:暴力の向き方が違うような気がする。

み:混乱の質が違いそう。

り:息子の態度もきっとそうで、分からない存在だからこその無意識の暴力が働いているような気もします。

み:でもやっぱり、ひとつのイジメみたいなものもあるでしょう?

り:テープで顔をぐるぐる巻きにして、誘拐もどきのような事をしてるシーンもありましたね。表現として過剰に出しているようにも見えるシーンでしたが。

み:あれぐらいの事をする人も多いと思う。刑事や病院の人達との接し方を見ていると、マリーナがどれだけの人生を歩んできたのかっていうのが分かるわね。諦めというのが瞳の中にあって、表情もあまり変えないし、反抗したりもしない。人生の中でどれだけの無理解と怪物的な扱いを受けて、自分はそうされてもしようがないんだという諦めが切なくて切なくて。

り:女刑事だって。

み:あの人が一番偽善者よね。

り:そうそう。私は何年もそういう人に関わっているって。

み:そしてあなたを救いたいのって。

り:固まった考えの中からの発言が凄い。

み:物凄い偏見の持ち主。

り:この答えはこれみたいに。

み:ちょっとでもズレる事を許さない。あとは好奇心。

り:事件一つひとつが女刑事にとっては研究対象なんでしょうね。

み:救う為じゃないのよね。自分の標本を増やしたいだけ。そのいやらしさが凄く伝わってきた。役者さんがとても上手かった。奥さんも女刑事も、同じ瞳をしていたもの。安心感の上にあぐらをかいているような感じの瞳。やっぱりマジョリティなのよ。マリーナのような戦ってきている人のまなざしとは違う。

り:下に見てるんですよね。

み:上から目線なのよね。

り:だから奥さんも女刑事も、マリーナを対等な人間として扱っていない。

み:そこが一番腹立たしく、もどかしい所よね。


り:マリーナ役の女優さん、本当にトランスジェンダーの方なんですよね。

み:そうみたい。実際にトランスジェンダーで。

り:8歳でオペラ歌手としての才能を認められて、その後演劇を始めたってパンフレットには書いてあります。

み:じゃあ歌は本物なのね。

み:面白いところは、お化粧を濃くすれば濃くする程、男性性が出てきていたわね。ナチュラルなメイクだったり、すっぴんに近いメイクだと女性らしく見えるのに。

り:横顔とかは男性でしたね。

み:でも美しい。向かい風のシーンも印象的。最初のシーンは「ブエノスアイレス」を連想した。


り:イグナスの滝! あれ?ちょっと観たことのある感じだって思ってました。

み:オマージュかな?ってね…パンフレットにも同じ事が書いてあるわ(笑)

り:あの滝を見ると、自分の無力さをいつも感じます。

み:イグナスの滝に行きたいなって思っていて、昨日もイグナスの滝の映像を観たばっかりだったのよ。

り:割と今回ピンポイントで突いてくる映画でしたね。

み:劇中の歌アレサ・フランクリンの「Natural Woman」の「あなたと一緒だとありのままの女(あたし)でいられる」という歌詞、良かった。最後に流れていた、アラン・パーソンズ・プロジェクトの「Time」も良かったし。音楽がとても良い。

み:可哀想な話ではあるけれど、そんなに愛し愛されるような関係の恋人がいたのよね。最後は逢えるように導いてくれもしているし。

り:常にオルランドの幻影みたいな存在が見守っている感じ。マリーナは涙をほとんど流さなかったですね。

み:だからこそ、火葬シーンの涙が効くわね。

り:際立ちますよね。私も昔同じ事を思った事があるのですが、それまではとても哀しいけれど、火葬する事で諦めというか…終わってしまったというか…どこかで気持ちに距離が出来るような気がするんですよね。整理を付けるというか。

み:火を点ける瞬間が一番切ない。

り:マリーナは、オルランドの遺体を見ただけでは気持ちに整理がつかなかったんじゃ無いかなって思うんです。やっぱり火を点ける瞬間を見届けた事で、次のステップにちゃんと進もうって思ったんじゃないかな。

み:ちゃんとそれが出来るように、オルランドの幻影は導いてくれたって事かしらね。オルランドの人物像ってそんなに出てこないけれど、存在感がある。彼女を愛してくれて有難うと言いたくなるくらい。

み:ロッカーのシーンはチケットがあると思ってた(笑)

り:私も!(笑) 最初に探していた大きい白い封筒があるのかなって。まんまとやられましたね。

み:何も無い! あれは参った。

(監督はこのシーンについて「映画の中に”無“を作りたかった。映画は、スクリーン上に存在するものだけではなく、存在しないものによっても、ストーリーを伝えることができる。と話しています。そこに何があったか、もしくは何もなかったのかは自分達で考えて欲しいという監督からのメッセージだったという事でしょうか。)

り:たまにポップなシーンが入りますよね。さっき路子さんが話していた、風に立ち向かっていくシーンや、クラブでのミュージカルシーンだとか。クラブのシーンは多分「ブエノスアイレス」でも話しましたが、喪失感を紛らわせるために他の男と関係を持つってやつですよね。でもやっぱり気分は晴れない。


み:だけどあの時間は必要なのよね。でも過酷。好きな人を失って、一番哀しいはずの人が疑われたり、罵られたり。

り:そう思うと、マリーナは物凄く強い人間ですよね。

み:「試練は人を強くする」

り:映画の中で言っていましたね。

み:ずっと戦ってきたのよ。そういうのがボクシングのシーンに表現されてる。

り:だってあの実力があれば、殴る事も出来ましたもんね。

み:そうよ。でもそれをやったらダメだから。どうにもならないから。

り:それを耐える力が彼女の中にはちゃんとある。

み:爆発するのは、車の上に乗って、犬を返せ!って言っている所だけよね。

り:それだって爆発した相手に悪口を言うとかでは無い。自分で受けた痛みや傷を人に返すという事をしない。

み:だからやっぱり諦めがあるんだと思う。言ってもどうせわからないんだって。どっちかと言えば、そちらの方が上から目線かもしれないわね。でも上から目線とも違うか…。諦めるって私は傲慢だと思っているの。私は自分がそうだし、相手に期待しない。

み:私もずっとヒリヒリしていた映画だった。

り:だからこそ、たまにあるポップなシーンで一息つけましたね。

み:私は別に性的にマイノリティでは無いけれど、とても共鳴したの。心は女性、身体は男性という人達がいる中で、手術までしようと思う人と、そこまではしないという人がいるでしょう?

り:手術をしたい、したくない等は、正直私も詳しくは無いです。一括りのようにLGBTと言われてはいますが、その中でさえも分かれている気がします。だからトランスジェンダーに関しては分からない事も沢山あります。複雑な部分も多いように感じますし、それこそ決まっている定義に当てはめるというのともちょっと違いますし、簡単に一言でこれっていう風には言えないです。

み:マリーナのお姉さんは一応理解者として出てくるのよね?

り:そうだと思います。お姉さんとそのパートナー。あとはオルランドの弟もだけれど、かと言って…。

み:積極的に守ろうとはしない。

り:そういう人は多いと思います。理解はしているけど、自分に被害が…。

み:及ばない程度にね。

み:鏡の使い方も上手かったわね。ネイルサロンから出てきた時に、大きな鏡を運ぶ人達に遭遇するけれど、そのシーンがとても綺麗だった。


り:歩くシーンが多かったですね。

み:多かった。靴もブーティーが好きなんだなって。足の形もあって、普通のハイヒールよりもああいう靴の方が合うのかも。あとは、歌の先生とのシーンも良かった。聖フランシスコの言葉を使って言うのよね。

「“愛をくれ平和をくれ、あれをくれこれをくれ”とは言わない。“私を君の愛の動機に、私を君の平和の手段に“」

でもやっぱり理解して愛してくれる人がいる。オルランドは死んじゃったけど、凄く幸せな出逢いがあったのね。家族も全部捨てて、マリーナの所へ行ったのだものね。よっぽどの愛よ。そこは全部カットされているけれど、大変だったと思う。

り:彼女の性質に対しては色々とあったけれど、いがみ合いみたいなのはほとんど出てきませんもんね。

み:テーマをちゃんと絞っているという感じはしたわ。


~今回の映画~
「ナチュラルウーマン」 2017年 チリ・アメリカ・ドイツ・スペイン
監督:セバスティアン・レリオ
出演:ダニエラ・ヴェガ/フランシスコ・レジェス/アリン・クーペンヘイム/ルイス・ニェッコ/ニコラス・サヴェドラ

-ゆかいな仲間たち, よいこの映画時間