◎23本目「誰もがそれを知っている」
2020/02/06
朝から銀座エリアで活発に行動し、ランチを挟んでからの映画鑑賞。
私達とても健全で素晴らしい。
現在公開中のペネロペ・クルス主演「誰もがそれを知っている」。
内容や秘密が分かってしまうので、ご注意を。
り:ちょっとパンフレットで人物確認しても良いですか? 冒頭から似た顔の登場人物がわぁーっと出てきたので、誰が誰だか一瞬分からなくなりました。みんな似たヒゲ面だったから、分かり辛くて(笑)
み:一応みんな家族だから、似たような感じにしたのよ(笑)
み:りきちゃんは、結婚式のシーンで泣いたのよね? それはどうして??
り:何でですかね。最近涙腺弱いから。
み:結婚式って教会のシーン?
り:結婚式後のパーティーシーンです。幸せなムード、バカ騒ぎなムード、ああいう場所で起りうる男女の関係、そういった様々な強いエネルギーみたいなものに圧倒されたというのはあるかもしれません。
み:それは今自分に無いものだから?
り:そうですかね…。まあ今の日本じゃゲイの結婚は遠い話ですし。
み:自分には訪れない物悲しさを感じたとか?
り:そういうのでも無かったです。うーん、グザヴィエ・ドランの「Mommy」でも感じた、最高潮のキラキラした瞬間にも泣いてしまう、というのと似ていたのかな。パーティーシーンは、幸せの最高潮を表した部分ですよね。あのエネルギッシュな場面があったからこそ、その後へのどん底具合が引き立つものになったのだと思います。
み:ああいう中でも、最高潮な気分では無い人もいると思うの。今は幸せだけど、あとはこうなる…という部分は描かれていないから。でも、たしかにはじけてる印象はあったわね。私にはあまりにも遠すぎて、うーんって感じ。
り:私にはあまりにも強すぎて(笑)
み:今日の映画のテーマは、ずばり何だと思った? 監督のアスガー・ファルハディは「セールスマン」という作品で話題になっていたの。その映画で2016年にカンヌ映画祭の主演女優賞を受賞しているし、アカデミー賞でも外国語映画賞を受賞している。だからどんな「秘密」なのかなって思っていたのだけれど…。
り:秘密に関しては。
み:ありがちな。もうちょっと入り組んでいると思ったら、割とあっさり…。
り:そうそう、あっさりな展開でしたよね。
み:秘密とは、誘拐された娘イレーネ(カルラ・カンプラ)がラウラ(ペネロペ・クルス)と昔の恋人パコ(ハビエル・バルデム)の娘だったって事。
一族の使用人だったパコは、ラウラから安く土地を買ってしまった事で、みんなからあまり良く思われていない。恐らく誘拐犯は、パコの所有する土地を売れば、どれくらいのお金になるかを分かった上で、イレーネを誘拐していると思うの。そしてイレーネはパコの娘だから、絶対に身代金を出して助けるだろうって。タイトルの「誰もがそれを知っている」というのは、イレーネがラウラとパコの娘であるというのを知っているという事なのね。
り:「イレーネはパコの幼い頃にそっくりだ」って村中が噂していたっていうシーンがありましたもんね。村中が暗黙の了解状態。
み:パコが時々咳をするのも、イレーネとの共通点。ラウラとパコは今でも愛し合っているという訳では無いのよね?
り:そういう感じでは無かったですよね。
み:昔の懐かしい人。身近な人が誘拐され、急にお金を用意しなきゃいけないというシチュエーションだったとしても、10年以上経ってから、「実はあなたの子どもなのよ」って言われて、ピンと来るものなのかしら。0歳の頃から、すべてを承知で娘イレーネを育てているラウラの夫アレハンドロ(リカルド・ダリン)とイレーネの実の父親パコの取り乱し方の違いも気になった。
り:育ての親としてのアレハンドロの方が落ち着きがありましたよね。
み:そうそう。そういうものなのかしら。
り:お葬式の時に取り乱さず、冷静になる人っているじゃないですか。そういう感じですか? 感情におぼれずに。
み:たしかに。母親であるラウラがとにかく取り乱していたわね。私も、自分の娘が、って考えるともちろん気持ちはわかるけど、取り乱しかたがラテン。
り:この映画って、一族や、移民の季節労働者への疑い、使用人との関係などの中に古めかしさを感じたんです。だから一族の結束や差別というものがまだ根強い地域なのかなって思いました。
み:映画で描かれている一族が、田舎の地主っていうのも。
り:そうそう。だから家族を疑うっていうのは。
み:タブーという訳ね。
り:そこは国民性の違いというのもあるでしょうし、田舎という閉ざされた世界特有の人間関係の濃さも関係しているんでしょうね。
み:もう少し男女間の愛情とかも描いてほしかったけれど。
り:あくまでもやっぱりサスペンス。
み:静かなサスペンス。
み:ラストの場面で、犯人を知ってしまったラウラの姉は、この先、家族に事件の全貌を明らかにするのかしら?
り:明かされるのか、それとも秘密にしておきましょうとなるのか。
み:自分の子どもが犯罪に関与しているものね。
り:そうそう。親が子どもを守るために…っていうのはよく聞きますよね。何があっても、自分の子どもだから守り通すわ!みたいな。
み:ところで。パコの妻 ベア(バルバラ・レニー)はパコの元に帰ってくると思う?
り:帰ってきますか?? 私は少し自殺してしまった、というのも考えたのですが。
み:自殺するタイプでは無いと思うの。
み・り:帰っては来ないかな。
み:でもパコは最後にとても満足そうな微笑みを浮かべているから、自分が娘を救えたという満足感を感じているのね。ちょっとマッチョ映画よね。
り:マッチョ映画!?(笑)
み:男のロマン的な部分が少しあるような。パコは実の娘のために、自分の全財産を投げ打って、それを差し出して無一文なのよね? 妻のベアはそういう事も含めた上で、受け入れ、理解するという道もあったはずなの。そういう人もいるわよね?
り:いると思いますよ。
み:でも、ベアはそれを許せなかった。自分に対して一番じゃないから。昔の恋人ラウラ、ふたりの間に娘が実はいたこと、そう言うことに対する嫉妬もあるかな。
り:イレーネが実の娘というのが明かされる以前は、単なる「昔の恋人の娘」ということですよね。その子が誘拐されて、なぜ、自分の夫パコは、そんなに必死なのか、っていうあたりからひっかかっていたのだと思う。ベアにとっては、いろんなことの積み重ねがあって。
み:ぶち切れ。
み:無事にイレーネが助かり、「衰弱しているから病院に早く連れて行った方が良い」って言われているのに、連れて行かない(笑)
り:ははは! たしかに(笑)
み:あんなに衰弱しているのに(笑)
り:薬持った?っていうシーンが終盤あったので、どこかのタイミングで行ってはいると思いますが、私も同じ事思ってました。
み:衰弱しながらも、イレーネは「どうしてパコが(私を救いに)来たの?」って言っているから、きっとこれから真実が明かされるのよね。
り:パコもイレーネを見つけた時、「私のイレーネ」みたいな事を言っていたから、何かしらイレーネは疑問が湧いたんじゃないですかね。そもそもラウラとパコが付き合っていたという事を、教会の時計塔で聞いてますもんね。
み:パンフレットにある翻訳家の小竹由美子さんのコラムで「ラウラはなぜパコと別れてアルゼンチンに渡りアレハンドロと結婚したのだろう、この映画では語られていない物語が気になる。」って書いてる。私も気になる。
~今回の映画~
「誰もがそれを知っている」 2018年 スペイン・フランス・イタリア
監督:アスガー・ファルハディ
出演:ペネロペ・クルス/ハビエル・バルデム/リカルド・ダリン