☆41本目『逢いたくて』
2020/02/06
【あらすじ】
美術書の編集を仕事にしているファネット(カトリーヌ・ドヌーヴ)。時間のある時は映画館へ足を運び、大好きな映画『めぐり逢い』を観て、昔好きだったフィリップを想い続ける毎日。
ある日、「エンパイアステート・ビルの上で会おう」というフィリップからの手紙を見つけます。
偶然仕事でアメリカへ行くことになっていたファネットは、フィリップとの約束を胸に、ニューヨークへ旅立ちますが…。
(今回はラストに関する重要なネタバレがあります。お気を付けください。)
路子
ドヌーヴが出演をOKしなかったら、監督はこの映画を撮らなかったって言っているんですって。
特典のドキュメンタリーでも、ドヌーヴありきの映画だって言ってました。
りきマルソー
路子
ほとんどのシーンにドヌーヴが出演していたものね。彼女のプロモーションビデオみたいだった。
監督もそのあたりは意識していたみたいですね。
りきマルソー
路子
見どころはどこかしら。59歳のドヌーヴの現役っぷり? ツッパリっぷり? みんなに手厳しいものね。
ほかの映画で描かれているような、男から言い寄られた時にするドヌーヴの冷たい素振りというのを、この監督は昔からたくさん見ていると思うんですよね。だから、そういう部分も影響して、こういう人物像になったんじゃないですかね。
りきマルソー
路子
きっとそうよ。監督はドヌーヴ・ラブだもの。
アメリカで出会う写真家のマット(ウィリアム・ハート)はふつうに言い寄ってくる男とは少し違うタイプでしたね。ファネットに対して嫌なこともズケズケ言いますし、たまに優しいことも言う。飴と鞭状態。
りきマルソー
路子
かなりきついことも言うのよね。「髪が多くてヘルメットみたいだ」とも言ってた。ドヌーヴは、あのボリュームのある髪が売りだし、豊かな髪というのを美しさの象徴と自慢にしているのに。アメリカとフランスでは考え方が違うのかしら。
マットがファネットに触れるカフェのシーンはすごかったですね。息も荒くなって、顔も本当に紅潮していて、目もトロンとなって。
りきマルソー
路子
かわいかったわね。あれ演技よね?
おそらく…。そのカフェでのことがあってから、マットへの態度が一気に変わりますよね。それ以前は「“R”で終わる月しかキスしないの」なんて言ってキスされるのを嫌がっていたのに、頬へのキスも受け入れるようになる。
りきマルソー
路子
娘がファネットにするキスのことはどう思った? 驚いているファネットに対して、娘が「前はしてくれたでしょ?」って言ってるけど。
ラ・ロシュフーコーの「キスを安売りすれば 唇の味わいが消えるわ」という言葉を返してましたね。
りきマルソー
路子
「唇は恋人のものだわ」とも言っていた。単純に子供から母親へのキスという感じだったのかしら。
たしかに。映画の後半に、娘のレズビアンっぽい同居人が出てきますよね? 「母親」への懐かしみや甘えも含んだような気持ちの他にも、「女」に対する性的な意味合いも多少はあったような気がします。
りきマルソー
路子
そうね。私もそう思った。
ラスト、どういう意味か分かりました?
りきマルソー
路子
んんっ?
私、2回観たんです。最初に観た時は気付かなかったことがあって。
りきマルソー
路子
えっ? なになに?
エンパイアステート・ビルでファネットがエレベータを待つシーン、一瞬だけ男の人が映るの覚えてますか?
りきマルソー
路子
うん。
あれ、ベルナールだったんです。
りきマルソー
路子
ベルナールって、最初のシーンでファネットを叩いた男よね? いつもつきまとってくる嫌な奴ってりきちゃんが怒ってた人。
そうです。本当に一瞬だったので、写真を撮って比較をしてみたんです。そしたら服も顔立ちも同じ。そうすると、ベルナールがフィリップと偽ってファネット宛に手紙を書いて、呼び寄せた、という話なのかなって。
りきマルソー
路子
気付かなかった…。
(写真を確認しながら)同じ夜の時の写真なんですけど、バーで会った時のベルナールと、エレベーターの男の服は、同じじゃないですか? 青シャツとグレーのスーツ。その後にファネットが外に出た時に、フィリップの後ろ姿みたいなものを見送るシーンがありますが、その時の服とは違うんですよね。
りきマルソー
路子
じゃあフィリップのことをずっと想っている、というのを知っているベルナールが一芝居を打ったってこと?
その可能性が高いような気がします。
りきマルソー
路子
真実はそっちじゃない! すごい発見よ、りきちゃん!
そうなんですよ。気付かなければ、フィリップを断ち切って、ジョンを選んだという話になったんですよね。
りきマルソー
路子
私はそう思ってた。今の今まで。
そっちの方が綺麗な終わり方でしたが、気付いてしまって。
りきマルソー
路子
素晴らしいわ。と、いうことは、ベルナールは本当に嫌な奴ということじゃない!
そうなんですよ! もしエレベーターの男がベルナールだったら、よくよく考えたら、フランスにいた人と、ニューヨークのバーでばったり会うのおかしくない?、という疑問も解決するんです。
りきマルソー
路子
たしかにね! ファネットがベルナールの姿をエレベーターで見ずに上にあがっていたら、フィリップではなくベルナールがいるということでしょう? 翻弄したいという満足感でベルナールはそんなことをしたのかしら。
ベルナールの執着は相当なものですよね。
りきマルソー
路子
ほとんど趣味になってる。
同窓会での再会云々の前から執着していたような気がしますよ。映画館にもいるし。きっとファネットが『めぐり逢い』の映画が大好きで、よく観ているのも知っているんですよね。だから、『めぐり逢い』のシーンを絡ませて、待ち合わせ場所をエンパイアステートビルのてっぺんにしたんですかね。
りきマルソー
路子
それに同窓生だから、ファネットがフィリップを想っているのも知っている訳ね。でもそうすると、単純な恋愛話とは違う結末で面白いかも。この映画の裏テーマは「ねちっこい男の執着」だったのね! 分かる人にしか分からないシーンに気付けなかったなんて、くやしー!
でも全然違うかもしれない。そしたら恥ずかしいー(笑)。
りきマルソー
路子
ファネットは純粋にマットに対する恋を選んだ訳ではなく、騙されていたと気付き、上に行くのを止めたということね。
私はそうだと思っています。今まで幻想のような存在を追っかけていましたが、これがきっかけで、彼女は一つ区切りをつけた気もします。上に行かずに外に出た時、フィリップの幻想を見送るようなシーンもありましたし。もう少し現実を見ようと心に決めた瞬間だったのかもしれませんね。
りきマルソー
~今回の映画~
『逢いたくて』 2002年11月 フランス
監督:トニー・マーシャル
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/ウィリアム・ハート/ベルナール・ル・コク/パトリス・シェロー