☆44本目『クリスマス・ストーリー』
2020/02/06
【あらすじ】
骨髄移植が必要な悪性のガンが発覚した一家の母ジュノン(カトリーヌ・ドヌーヴ)。
母親の病気をきっかけに、一家全員がクリスマスに集まることになりました。
しかし、数年前に一家を追放されたアンリ(マチュー・アマルリック)もその場に駆けつけたことで…。
☆今作は出演者が多い為、登場人物を紹介します。
ジュノン (カトリーヌ・ドヌーヴ)
ジュノンの夫 アベル(ジャン=ポール・ルシヨン)
長男ジョセフ 幼い頃に亡くなっている
長女 エリザベート(アンヌ・コンシニ)
エリザベートの夫 (イポリット・ジラルド)
エリザベートの息子 ポール(エミール・ベルリング)
次男 アンリ(マチュー・アマルリック)
アンリの恋人 フォニア(エマニュエル・ドゥヴォス)
三男 イヴァン(メルヴィル・プポー)
イヴァンの妻 シルヴィア(キアラ・マストロヤンニ)
ジュノンの兄の息子 シモン(ローラン・カペリュート)
路子
初めて観た?
ずいぶん前に一度観たことがありました。
りきマルソー
路子
私は公開当時に劇場で観た。
150分あるのに、全然長く感じない。
りきマルソー
路子
うん、全然。
覗き見みたいなカメラ演出はどういう意味ですかね。
りきマルソー
路子
私も分からなかった。
観客に語りかけるように、登場人物が話してくるのは面白かったですね。
りきマルソー
とにかくみんな不器用。フォニアだけが…。
りきマルソー
路子
一番「普通」なのよね。
まとも、というのとは少し違う。全てを知っているというか…。
りきマルソー
路子
フォニアもそうとう変わり者だけど、あの家族の中に入ると、一番ちゃんと世間を歩いている人に見える。家族はみんな依存し合っているけれど、フォニアだけはひとりで生きているような。
アンリと付き合ってはいるけれど?
りきマルソー
路子
うん。ひとりで立っているような感じがしたのよね。
ちょっとしたことを気にするような性格ではないですよね。
一緒にお買い物へ行ったジュノンが、いつの間にかひとりで先に帰ってしまった時も、そんなに気にしている様子ではなかった。
一緒にお買い物へ行ったジュノンが、いつの間にかひとりで先に帰ってしまった時も、そんなに気にしている様子ではなかった。
りきマルソー
路子
へーえ、帰っちゃったんだ…ぐらいのものよね。
他の登場人物よりも器が大きい。
りきマルソー
路子
だからこそ、アンリのような性格の人物を受け入れられるし。
アンリのひねくれた性格も楽しめるのかもしれませんね。
りきマルソー
路子
ドヌーヴのみどころはどこでしょうね。
母親らしからぬ母親(笑)。
りきマルソー
路子
母親だということを忘れるわね。
自分の子どもに対して、あれ好き、これ嫌い、というのがハッキリしていますよね。
りきマルソー
路子
ハッキリしているどころか、直接言ってるし。
「彼(アンリ)はベッドで どう?」って、フォニアに息子のセックス事情を聞いたり。
「彼(アンリ)はベッドで どう?」って、フォニアに息子のセックス事情を聞いたり。
セックスに関しては、今も夫婦間で続いてる感じでしたよね。「孫が来るとセックスレスね」、というセリフもあるぐらいですし(笑)。
りきマルソー
路子
そんなにしてるんかい!っていう感じね(笑)。
好きな人がいっぱい出演していて嬉しい映画でした。
りきマルソー
路子
エマニュエル・ドゥヴォス、カトリーヌ・ドヌーヴ。あとはシルヴィアの旦那さん役の人?
そうです。オゾン監督の『僕を葬る』に出演していたメルヴィル・プポー。
りきマルソー
路子
今回メルヴィル・プポーは影が薄かったわね。びっくりしちゃった。
この映画に関しては、その影の薄さがちょうどよかったかも。
りきマルソー
路子
やっぱり、キアラ・マストロヤンニが好き。
今回のキアラ、すごく良かったですよね。まあ、エマニュエル・ドゥヴォスの方が好きですけど(笑)。
りきマルソー
路子
100倍くらいキアラの方が好き(笑)。
でも実は今回、ドゥヴォス良いな、と思って見ちゃったのよね。
でも実は今回、ドゥヴォス良いな、と思って見ちゃったのよね。
ほらー、ちょっと良さに気づきましたか?
りきマルソー
路子
うん。
なんとも言えない魅力なんですよね。すごく美しいとも言えないし。
りきマルソー
路子
ふとした瞬間に、すごく綺麗に見える時がある。でもよく見ると綺麗じゃない。ドロンとした目や、歪んだ口元…絶妙なバランスなのよね。腐りかけたフルーツはとても香る、と言うけれど、それに近い。
うまい!
りきマルソー
路子
整ってはいないから、ドヌーヴやキアラに比べたら、全然違う。でも、りきちゃんが魅力的だ、と言っているのが今回よく分かった。
アンヌ・コンシニはジトッとした役柄だったけれど、彼女はすごく幼く頼りない感じに見える時と、おばあちゃんみたいに見える時があって、とても魅力的だった。
アンヌ・コンシニはジトッとした役柄だったけれど、彼女はすごく幼く頼りない感じに見える時と、おばあちゃんみたいに見える時があって、とても魅力的だった。
人物的には、あの人が一番いいなって思ったんです。
りきマルソー
路子
シルヴィアをイヴァンに譲った人?
そうそう! さすがわかっていらっしゃる! いとこのシモンですね。一番好き。
シルヴィアがシモンと寝るのは、最初からイヴァンと決めていたことなんですかね。 シモンと寝た後、ベッドの中のシルヴィアと、部屋の外にいるイヴァンが頷きあってるシーンがありますが。
シルヴィアがシモンと寝るのは、最初からイヴァンと決めていたことなんですかね。 シモンと寝た後、ベッドの中のシルヴィアと、部屋の外にいるイヴァンが頷きあってるシーンがありますが。
りきマルソー
路子
決めてはいないと思うけれど…。
ドゥルルルルとさかのぼって頂いて、電車のシーンで、シルヴィアが旦那と何かを決めたって言っているシーンなかったでしたっけ?
りきマルソー
路子
あれっ? そんなシーンあったかしら?
もう一度確認をしてみようとは思いますが、もしかして、最初から決めていたことなのかなって。だから…。
りきマルソー
路子
ベッドインしているのを旦那のイヴァンに見られても平気だったということ?
あのシーンって、ありえない状況よね。違う男と寝ている母親を、子どもたちが起こしにくる(笑)。
あのシーンって、ありえない状況よね。違う男と寝ている母親を、子どもたちが起こしにくる(笑)。
実家で(笑)。
りきマルソー
路子
しかも朝食を自分の子どもたちが運んでくる。そしてその様子を夫が穏やかに見ている。そこのシーンは要確認ね!
そのシーンは私にとって謎の部分。
りきマルソー
路子
私は、夫婦の間でシモンと寝ていいよ、という約束はしていなかったと思う。していない方が、いかにもって感じがする。
(確認をしたところ、ジュノンとの約束についての話で、夫とは何も約束していませんでした…。)
路子
事実(シモンがシルヴィアを諦めて、イヴァンに譲ったこと)を知ったシルヴィアが、シモンがこう問い詰めるの。
「あなたを愛したかもしれぬ 私の人生を奪った」とんでもないセリフだと思った。
今の生活に不満はないし、セックスもしているから、夫婦間は割と上手くいっている。でも一方で、シモンのことも好きだった。だから本当は自分で道を選びたかった。このあたりには、愛の複雑さを感じたの。
シルヴィアが怒っている理由は、シモンを選ぶ人生もあったかもしれないのに、それがあらかじめ奪われてしまったからかしらね。
「あなたを愛したかもしれぬ 私の人生を奪った」とんでもないセリフだと思った。
今の生活に不満はないし、セックスもしているから、夫婦間は割と上手くいっている。でも一方で、シモンのことも好きだった。だから本当は自分で道を選びたかった。このあたりには、愛の複雑さを感じたの。
シルヴィアが怒っている理由は、シモンを選ぶ人生もあったかもしれないのに、それがあらかじめ奪われてしまったからかしらね。
路子
イヴァンにシルヴィアを譲ったことで、シモンは性格も変わってしまったのよね。
シルヴィアをあきらめたことで、暗くなってしまったと言っているシーンがありましたね。
りきマルソー
路子
究極の純愛といえば、ドヌーヴも出演している『イースト/ウエスト』を思い出すけれど、シモンが抱いているものも、一種の純愛だと思ったのよね。
彼を見ていて思い出したのは、中山可穂の小説『悲歌 エレジー』の「たとえば愛を後ろ手に隠して、それと気づかせぬまま、愛を貫く方法はないか」という言葉。
彼を見ていて思い出したのは、中山可穂の小説『悲歌 エレジー』の「たとえば愛を後ろ手に隠して、それと気づかせぬまま、愛を貫く方法はないか」という言葉。
全くその言葉の通り。過去の話というよりは、今も続いてる様子でしたね。
りきマルソー
路子
寝てしまった後は、どうなるのかしら。頻繁に会い始めると思う?
あの家族なら、それすらも受け入れそう。
りきマルソー
路子
まあね。批判するような雰囲気ではないわね。
エリザベートとアンリの仲の悪さはあるけれど、そういうのは許されちゃう家族というか。
りきマルソー
路子
ジュノンがフォニアに「シルヴィアが嫌い?」と聞いたとき、「嫌いよ、息子をとったから」と言うのに、フォニアのことは「好きよ 嫌いな息子だから」と答えてる。大ウケしてしまったわ。ああいうのを平気で言えるのはすごいことよね。
そういうのが許される環境だからこそ、関係が上手くいってる感じはありますよね。
りきマルソー
路子
本当に嫌いで陰湿な嫌悪感だったら、吐けない言葉よね。アンリは出来が悪いし、生意気だし、とんでもないからやだー、だいっきらい、みたいな軽い感じで言っているから、根底には愛があるのかな、と思った。
。
エリザベートの息子 ポールはちょっとかわいそうだなって思いました
りきマルソー
路子
精神を病んでいる子ね。
ジュノンと骨髄が適合した人物ではあるけれど、それを抜くって、身体に負担がかかることですよね。他にも適合した大人がいるのであれば、息子に辛い思いをさせたくない、できれば他の大人にやってもらいたい、と思いそうなのに、率先してうちの息子にやらせよう、みたいになりますよね。
兄弟間のもめ事に巻き込まれてしまっているし、精神的にも彼は負担だったろうな。
兄弟間のもめ事に巻き込まれてしまっているし、精神的にも彼は負担だったろうな。
りきマルソー
路子
あの一家の中で、一番ジメッとしている人物は、エリザベートなのよね。
そうですよね。息子のポールよりも。
りきマルソー
路子
みんなエゴイストだけれども、エリザベート以外の家族は、自分のことをエゴイストだと、どこかで自覚しながらいる。でも彼女は、自分のことをエゴイストだと思っていないのよね。正論を振りかざして、息子を含め、周囲をコントロールしようとする人物なのよね。
ポールはなんでアンリに助けを求めたと思いますか? 最初はイヴァンがポールを助ける、という話だったのに。
りきマルソー
路子
病んでいる感じの根本が近いと感じたからだと思う。同志の人間のような感じ。イヴァンが手を差し伸べてくれた時は、きっと同じ種族だとは思えなかったのだと思う。
ポールの精神病について、アンリはかわいそうだとは思っていないのよね。
ポールの精神病について、アンリはかわいそうだとは思っていないのよね。
むしろ悪口を言ってますね。
りきマルソー
路子
それって、精神病をポールの性格のひとつとして扱ってくれているということなのよね。みんなそうだろ? どいつもこいつもクレイジーなんだっていう素振り。それがきっと心地よく、彼の救いになったんだと思う。どうしようもない男だけれど、そういう部分に、ポールは惹かれたんじゃないかしら。
元々は長男の急性白血病を治療するために骨髄移植が必要だから、アンリを産んだんですよね?
りきマルソー
路子
でも適合しなくて、アンリは役立たず扱いをされてきた。こういう話って、映画や小説でよくある設定よね。
その時は命を救うために必死だから、そういう風にしか考えられないのかもしれないけれど。
りきマルソー
路子
役立たずという理由で、家族から嫌われてしまったけれど、ひねくれた理由は、そういうところも影響していると思う。
誰々の代わり、というので生まれてきた子は、本人にとってたまらないわよね。自分が愛されている訳ではないんだもの。
長男を助けるために産んだ子によって、ジュノンは救われるのよね。そのあたりの皮肉さは好きだったな。とても幸せそうだったものね。ようやく役に立てた、と思ったのかしら。
誰々の代わり、というので生まれてきた子は、本人にとってたまらないわよね。自分が愛されている訳ではないんだもの。
長男を助けるために産んだ子によって、ジュノンは救われるのよね。そのあたりの皮肉さは好きだったな。とても幸せそうだったものね。ようやく役に立てた、と思ったのかしら。
アンリは術後に目覚めた後、すぐにジュノンの様子を見に行ってましたね。
りきマルソー
路子
泣ける場面よね。そのシーンでジュノンとの感情の交換が一瞬だけれども描かれていて、すごく良かった。
アンリとジュノンのシーンは、ずっとそんな感じですよね。ふたりでタバコを吸っているシーンも。
りきマルソー
路子
あんた、バカね。みたいな軽い気持ち。
そうそう、悪い感じはしない。
りきマルソー
路子
同じ言葉をエリザベートに言ったら、きっと打ちひしがれちゃう。だからちゃんとキャラを見て言っているし、それなりにアンリを愛してはいるのよね。
路子
どのシーンを取り出しても話ができるくらい、面白い映画だった。
アンリがエリザベートの旦那に殴られているシーン好きでした。食事をしながらアンリが殴られているのを笑って見ているフォニア。それを笑って見ていられる彼女の心の広さ。喧嘩すら楽しんでる。
りきマルソー
路子
適役だったわね。
ドゥヴォスはフランスで美しい存在とされているみたいですよね。
りきマルソー
路子
そうみたい。
「あなたのような美女がこんな男といるなんて」「アンリの彼女セクシーだと思わない?」と驚かれていますよね。
りきマルソー
路子
この人は映画の中でマリリン・モンローみたいな使い方をされているんだ、私の目がおかしいんだ、私の目がおかしいんだ!ってずっと思っていたけど(笑)。
でも日本の雑誌では「醜くも美しい」みたいに書かれていたこともあるので。
りきマルソー
路子
じゃあ、必ずしも私の目がおかしい訳ではないのね。
岩波ホールに一緒に観に行った『ヴィオレット ある作家の肖像』で作家のヴィオレット・ルデュク役を演じていた時も、少し醜いという役柄でしたよね。
りきマルソー
路子
それにコンプレックスを持っているという人物だった。
だからフランスでも、「醜くも美しい」的な見方をされているのかもしれませんね。
りきマルソー
路子
ジュノンの旦那アベルのことはどう思った? 印象薄かった?
薄くはないですが…笑いながらも言うことはちゃんと言う人物ですよね。ヘラヘラしているように見えるけど、ちゃんと家族ひとりひとりを見てる。
りきマルソー
路子
そうね。なにかを諦めて生きているようにも見えるし、あんまり人を支配をするような人物ではない。まあ強烈な奥様がいるので、自分は影の存在になるということかしら。
周りが強烈だから、ドヌーヴがそんなに際立っているわけではないのよね。それってすごい。なのにこの作品でドヌーヴ はカンヌ国際映画祭特別賞を受賞してるなんて。
周りが強烈だから、ドヌーヴがそんなに際立っているわけではないのよね。それってすごい。なのにこの作品でドヌーヴ はカンヌ国際映画祭特別賞を受賞してるなんて。
登場人物が多いですよね。多いと、話にまとまりがなくなることが多いですけど、
そういう風には感じない作品でしたね。
そういう風には感じない作品でしたね。
りきマルソー
~今回の映画~
『クリスマス・ストーリー』 2008年5月 フランス
監督:アルノー・デプレシャン
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/ジャン=ポール・ルシヨン/アンヌ・コンシニ/マチュー・アマルリック/メルヴィル・プポー/エマニュエル・ドゥヴォス/キアラ・マストロヤンニ