◆サンローラン、『昼顔』とヴォリュプテ◆2008.11.10
2020/04/22
イヴ・サンローランの訃報が全世界のメディアに流れたのは6月1日だったそうです。
そのことを、長い間「情報的冬眠」をしていた私は軽井沢が秋になってから知りました。
イヴ・サンローランといえば、「スモーキング(タキシード)」(←もちろん女性用の)や「サファリルック」などを次々と産み出した「美のマジシャン」。
今では誰も驚かない「シースルー」、これをモードとして最初に打ち出したのもサンローラン。
「シャネルは女性を解放し、私は女性に権力を与えた」
と言い切る彼は、だから「自分が発表した作品の中からどれか一着だけを選べといわれたら、迷わずスモーキングを選ぶ」のでしょう。
彼の名にふれるとき、レトロ好きの私としては、やはり『昼顔』がぐーんとクローズアップされます。
若き日のカトリーヌ・ド・ヌーヴの、硬質な美しさ。
彼女が扮するヒロインはセヴリーヌといい、「貞淑な妻」でありながら「昼顔という名の売春婦」でもあるという、かなり複雑な女性。
原作者のケッセルが描きたかったのは、「精神」と「肉体」の離反の悲劇。
……心と肉体がまるで別個のものとして存在していて、その二つが一つの人格のなかで闘争する。言葉で簡単に言い表すの気がひけるくらいに、壮絶です。肉体というものを、肉欲というものを、あなどってはいけない、と思い知らされる……。
話がそれました。
もどして。
その貞淑な妻でありたいセヴリーヌが身につけていたのが、サンローラン。繊細で「貞淑でありたい」と「願う」妻を、みごとに演出していました。
カトリーヌ・ド・ヌーヴは言っています。
「ただドレスを作る、というだけでなく、それをどのような女性が着るか、といったことまで探求してくれる人でした」
「私がこれまでずっとサンローランのファンだったのも、彼の作るドレスが、それを着る人の人柄までも引き出してくれるからです」
すっかり感じ入った私は、かなり遅れたけれど、私なりの追悼として、イヴ・サンローランから秋に発売された「ヴォリュプテ」(フランス語で『官能快楽』、という意味。なんてそそられるネーミングでしょう!)のルージュを購入することにしました。銀座のデパートの一角で、何色も試して、深いパープルブラウンを選びました。
*参考「エル・ジャポン 2008年8月号」