軽井沢ハウス

■6話■ やわらかき「照明」物語

2017/05/17

お疲れかもしれませんが、梁を見上げた首は今しばらく、そのままで。次に、天井にひときわ輝く照明をご覧いただきましょう。

■オンリーワンの美しきシャンデリア■

アイアンの面格子でご活躍いただいた野本博史氏。実はこのダイニングの照明も野本さんの手によるものなのです。
ある日のことです。面格子のデザインの打ち合わせにいらした野本さんに、私はすりすり、とすりよって、もみ手などをして言いました。
「ものは相談なんですがね、だんな、へっへっへ」
というのは嘘ですが、どうも卑屈になってしまうのには理由がありました。
私は野本さんにおそるおそる言いました。
「ダイニングの照明をつくって欲しいのですが、またしても予算が少ないのです」
はい、理由は予算でした。
優しい野本さんはおっしゃいました。
「おもしろそうですね。さっそくデザインしてみましょう」
えーん。ありがとう、野本さん!
そして、できあがってきた照明を見たとき、私は気を失いそうになりました。ふらふらっ。……だって……あまりにも美しすぎて……。

(*↑野本さん)


貴婦人にしか似合わないシャンパンを思わせる気泡入りのガラス……。これは、野本さんのお知り合いのガラス作家さんによるもの。三つがそれぞれに形も色も違って、とってもキュート。
そして野本さんによる、ぐるぐる巻きのアイアンも、なんて愛しいフォルム。面格子のときにも感嘆したけれど、野本さんときたら、なんて素敵なセンスをお持ちなのでしょう!
ところで。
ダイニングの照明だけ、なぜ野本さんにお願いしなければならなかったのか。しかも低予算で……。
この理由を説明するために、さあ、我が家の照明物語のはじまりはじまり、です。

■蛍光灯の消滅、白熱灯への偏愛■

軽井沢ハウスには、「蛍光灯」が一つもありません。すべて「白熱灯」。理由は単純、私の好みです(またしても)。
だって、私は蛍光灯が大嫌い。なぜなら「蛍光灯」は「しらけた気分」を誘発する、と信じているからで、照明を決める段になって、丸山さんにきっぱりと言ったものです。
「蛍光灯を使うくらいならカマドウマをペットにしますっ」
(注:カマドウマ=軽井沢に来て初めて出会った虫。陸上選手のように盛り上がったふくらはぎ、その他の形が嫌いです。すごくジャンプするし)
いえ、そんなこと言うわけがありません。ちゃんと「私は蛍光灯が嫌いです」と、普通にお伝えしました。丸山さんは「そうですか」と頷かれました。
が、この時点で、彼の頭の中は、
「山口さんは蛍光灯が好きじゃないんだな」
くらいの認識しかなかったようです。なぜなら次のような会話が。
「キッチンは明るい方がいいですから、ここは蛍光灯を使いますよね?」
「いいえっ」
「二階の納戸の中は、蛍光灯でいいですよね?」
「いいえっ」
「すると、洗面台も蛍光灯なしで?」
「もちろんっ」
「じゃあ、この家には一つも蛍光灯がないことになりますか?」
「そのとおりーっ」
というわけで、丸山さんの「それじゃあ、暗くね~か~?」的な不安を無視する形で蛍光灯は排除されました。
めでたしめでたし。
今、実際に生活してみて、不都合はありません。しらけた灯りがないことに、私は安心して日々を過ごしています。やはり蛍光灯は、私にとって安らぎとは程遠い灯りなのです。
さて。それで、メインは天井のダウンライトとし、絵を飾る予定の壁には、スポットをとりつけました。その他には、階段やトイレ、リビングなど、ところどころにウォールライトを。

リビング、ダイニングにはシャンデリアをつけることになりました。
しかしながら、丸山さんに見せていただいた照明カタログには、気に入ったものがありません。見事に、一つも、ありません。
そこで、私はネットで検索。「オールドフレンド」に、アンティークっぽい照明があることを発見、軽井沢からもっとも近いお店に出かけたのでした。

■照明を見上げ続けて、三時間■

あのときの「オールドフレンド」。
けっして広くはないあの店に、私たち、三時間くらいいたでしょうか。しかも照明の売り場ときたら天井から商品が下がっています(当たり前)ので、首が戻らなくなりそうでした。
 ウォールライトは割とあっさり決まったのですが(イメージ通りのがたくさんあったので)、リビングとダイニングのシャンデリアがなかなか決まりません。私は次第に焦ってきました。なぜなら予算オーバーは許されないし、けっこうきつい予算だったし、妥協は絶対したくないし、男子二名(丸山さんと夫)は、だんだん飽きてきて、
「これ、いいですよね?」
「うん、いい、いい」
なんて、最初は「いまいちだよなあ」なんて言っていた照明を急に褒め出したりして、あぶない雰囲気に。
とはいえ、私も元々体力がないので、へろへろに。天井の照明を見上げ続けること三時間ですから無理はありません。思考能力が低下し、疲労で半笑いしながら、私はいつしか言っていました。
「これにしましょう~か~。けっこう、いいかも~」
私の指の先には、ビッグサイズの照明が。それは、おそらく大きな丸太小屋なんかにつけたら、さぞかし映えるだろう、と思われるアイアン製の重厚なものでした。
冷静な今、私の頭には、その照明の下でハムを食べる父子の姿が浮かびます。そして、父が言うのです。「腕白でもいい、たくましく育って欲しい」
そんな照明だったのに、あのときは「意外と合うかも」なんて言っていたのです。疲労とはなんて恐ろしいのでしょう。
私の提案に丸山さんは無言、夫を見ると「いいかもな」と頷くので、「き~め~た~」と私は歌いました。
すると丸山さんがおっしゃいました。
「やめましょう。決まらないものは買わないで、またなんとか考えましょうよ。妥協してもいいことはない。山口さん、これ、思いっ切りヘンですよ。あの家に合わないですよ」
「は、はい」
丸山さんの剣幕に押されて私は頷きました。

あのときのことを思い返せば、丸山さん方面に(どこ)足を向けて眠れません。
「ええい、めんどうだ、なんとか決めさせよう」と思われて当然でしょうに、きっぱりと「思いっ切りヘンです」とおっしゃってくださって、私、ありがたくて、丸山さんを拝みたいくらいです。
あんな「腕白な」照明を選ぼうとするなんて、自分で自分が信じられません。繰り返しになりますが、疲労は恐い。
「疲れているときに、何かを決定してはいけない! 絶対に、いけない!」
これ、「腕白照明事件」で得た教訓です。
……と、長くなりましたが、このような一連の流れがあり、どうしても決まらなかったダイニングの照明を、野本氏にお願いした、というわけです。
そして結果的に大満足の照明をつけることができたのです。

■むき出しのソケットは白い体育帽■

もちろん、このシャンデリア、大好きです。けれど密かに私が日々愛でているのは、そのちょっと上、ソケット部分のカヴァ。

これも、「なんとかしてくださいっ」と野本さんに懇願してつけてもらったものです。もとは、銅製のアンティークのコーヒーカップですって! なんて素敵なんでしょう。
「そ、そこまでやるか?」
夫は、なかばあきれて言いました。

私はきっぱりと答えました。
「ええ、そこまでやるんです」。
だって、これだけこだわった照明なのに、あのそっけないプラスティックのソケットがむきだしなんて、絶対絶対、嫌です。
外観の「むき出しの基礎は白いスポーツソックス」と同じ理由で、「むき出しのソケットは白い体育帽」ってとこでしょう。
ドレスアップしている女性が、頭に白い体育帽をかぶっている姿を想像してみてください。しかも、首に白いゴムつき。むき出しの基礎と同様、私はどうしても嫌だったのです。白い体育帽が。
そして、ごねた結果、こんなにゴージャスな帽子が!
大満足です。ご理解とアイデアをありがとう、野本さん。

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