軽井沢ハウス

■7話■ ささやかな「窓」とステンドグラス物語

2017/05/17

「それにしても、やけに落ち着く空間だなあ」ですって? みなさんそうおっしゃいます。 さあどうぞ。ダイニングの椅子にお座りになってください。 

■明るくないと嫌ですか■

落ち着き感。それを感じさせる要因の一つは、部屋の薄暗さにあると思います。
ダイニングに隣接したリビングを覗いていただければ、ほら、よーくお分かりになると思いますが、我が家のダイニング、そしてリビングは他のお宅に比べて、かなり暗いです。
なぜなら、私が薄暗い部屋が好きだから。と言うと、まるで性格が暗いようですが、その通りです。いえ、ふざけているわけではないのです……。これは「古くて、暗くて、狭い家」のところでお話しましたね。
さて。薄暗い部屋になっているのは、やはり窓の大きさがポイントでしょう。窓が小さいから陽があまり入らない。窓を小さくした理由としては他に家具を置くスペースの確保、絵を飾るスペースの確保などが挙げられますが、もう一つ重要な理由があります。それは断熱効果です。

■たかが窓、されど窓■

軽井沢は冬が長く厳しいですから、できるだけ高断熱にする必要がありました。
窓がペアガラスなのは当然で、これだけでもかなりの断熱効果が期待できるようです。
「かなりの断熱効果」。
この言葉に「断熱かんぺき!」と早まってはいけません。
比較対象が何なのか、が問題です。ペアガラスではない窓と比べたら断熱効果が高い、という意味なのです。
丸山さんはおっしゃいました。
「どんなに素晴らしいペアガラスでも壁に比べれば、熱の逃げる率は高いですよ」
そうですよね。分厚い壁と窓。素人だって分かります。
ところで、私がお借りしていた家は、別荘仕様だったので窓がたいへん大きくとられていました。
庭の緑がばーんと見渡せて、夏はそれはそれは素敵だったけれど、冬は悲惨でした。
凍えるほどに寒かった。夕暮れになるのを待って雨戸を閉めなければならないほどに、寒かった。そして、暖めても暖めても熱が外に逃げてしまうのでした。
そんな経験をしていたので、自分が家を建てるときは、絶対絶対、窓は小さく。これはほとんど脅迫観念に近かったと思います。
そして、窓を小さくすれば薄暗くなるのは自然の摂理。だからなのか、冬の寒さが厳しい北ヨーロッパの家は、私が知る限り薄暗い家が多いのです。大切な家具を日焼けから守るということもあるのでしょうけれど。

■まばゆいほどに明るい部屋も■

ただ、家全部がどよーんと薄暗いのも気味悪いですから、一部屋だけ太陽燦々の部屋をつくりました。
それがダイニングに隣接しているサンルームです。この話はまた後ほどサンルームをご案内したときに詳しくしますけれど、ここだけはまぶしいほどに明るい。明るさが欲しいときは、サンルームに行けばいいわけです。
サンルームとダイニングを仕切るドアは、それこそ断熱ばりばりのサッシが入っているので、夜は閉じて、さらにカーテンをしゃーっと閉めてしまえば、とっても暖かに部屋を保てます。

 

■ステンドグラスで、圧迫感を解消■

ダイニングとサンルームの仕切りの壁、左右にステンドグラスが入っています。これは玄関ホールで使用したものと一緒に買っておいたものです。当初は、デザイン的に洗面浴室あたりで使おうかなと考えていたのですが……。
あれは、いつものように、ふらりと現場に立ち寄ったときのことです。私はダイニングのスペースに立ち、眉間に皺を寄せました。
やっぱり、ダイニングが暗すぎる。想像した以上に暗い。それになんだか圧迫感がある。 暗いのはまだよいとしても、圧迫感は避けたい。どうしたらいいだろう……。
私は左右の壁(になる部分を)をじっと見つめました。そして、あることを思いつき、大工の清水さんに言いました。
「清水さん、突然ひらめいたのですけど、今、ここにステンドグラスをはめ込みましょー、って言ったら怒っちゃいます?」
 清水さんは、さわやかに笑っておっしゃいました。
「できますよー、問題ないですよー」
やったあ。
私は早速、丸山さんに相談しました。すると丸山さんも、「そうですね、いいですね、そうしましょう!」と、のりのり。
というわけで私たちは三人で、るんるんとステンドグラスをはめ込みました。

もちろん実際に手を動かしたのは清水さん一人ですが、気持ちは一緒です。
「これはナイスアイデアだ」「うん、まるで最初から予定されていたように、ぴったりだ」「いいかんじ、いいかんじ」
楽しいひとときでした。




 

今、このステンドグラスのない壁なんて想像できません。そしてしみじみと思うのでした。……これも足しげく現場に通っていなかったなら、できなかったことだわ。

■とにかく、現場に足を運ぶこと■

忙しい毎日の中で、現場に出かけることは、けっこう、いえ、かなり大変です。実際、私も原稿に集中しているときなどは、どうしても足が遠のいていました。
けれど、自分のイメージは自分の頭の中にしかないのです。丸山さんや清水さんに、私がどんなに懸命に伝えたとしても、そして彼らがどんなに懸命に耳を傾けてくれたとしても、私のイメージは、せいぜい半分伝われば上出来でしょう。
これは当然のことです。私の一番の理解者であるはずの夫だって、私のことを全て、いえ、七割でも理解するのは無理なのですから。
「人と人との間には、信じ難いほどの無理解が存在している」
という現実だけは、私は常に自分に言い聞かせています。
いちいち大げさだなあ、という声が聞こえてきそうですが、ようするに私は、現場に足しげく通うことが大切、と言いたいのです。
このステンドグラスの一件は、私に次のことを実感させてくれました。それは、自分も家創りに参加している、ということです。
何をいまさら! 当たり前だろう! 
とおっしゃいますか? 
いいえ。これ、当たり前であって、当たり前ではないのです。
つまり、こうです。
家の設計図が完成した段階で、私はどこかで自分の役割は終わったように思っていたのです。さあさあ、これからは現場で実際に手を動かす人の番よ、と思っていたのです。
しかーし。
それは大きな大きな間違いでした。大切なのはむしろ、家を建て始めてからなのです。 私は、はめ込まれたばかりのステンドグラスを見ながら、決意を新たにしました。
さあっ、ここでエコーをきかせたいところです。
……これからも、設計段階では予想できなかったことが、たくさんあるに違いない。気を抜いてはいけない。最後の最後まで、この手で釘を打つことはなくても、私は家をつくることから離れてはいけない……
というわけで、ステンドグラスの話はおしまい。

 

★★★「絵の似合う家」が欲しい★★★

我が家にはいくつか大切な絵があるので、設計の段階から大きな絵はかける場所を決めていました。
たとえばダイニングの、我が家でもっとも大きな絵は友人の画家、出崎くみこさんの作品で、結婚記念に描いてもらったものです。また、リビングの横長の大きな絵はミラノ在住の画家、松山修平氏の「SHIN-ON」です。
この二枚はかける場所を予定し、壁を補強、照明も絵に合わせて考えました。
リビングなど、まだまだ壁面が空いているので、これからもっとごちゃごちゃっとしたかんじに、絵や写真で埋めていきたいです。
これは、好みといってしまえばそれまでですが、知人宅などを訪れたとき、壁面が殺風景だったりすると、惜しい……、と思います(もちろん計算しつくされた無機質さは別です)。
それから、たとえあったとしても、額装がインテリアと合っていないと、これも惜しい……、と思います。額縁とマット(額縁と絵の間のあれ)を変えるだけで、絵それ自体も、よっぽどの作品でないかぎり表情を変えるのです。
たとえば玄関シューズボックス上の絵は、ポーランドの画家マーゴジャータ・イエンタのオイルパステルです。「淑女の涙」という私好みのタイトルで、大好きな絵です(吉祥寺の「ギャラリー・アスティオン」の素敵なオーナー西川仁さんから結婚祝いにいただいたものです)。これも軽井沢ハウスに合わせて額装しなおしました。
と、このように絵をたくさん飾るためには「壁面」がたくさん欲しいので「窓を小さく」は、この点からも好都合だったのです。

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