軽井沢ハウス

■10話■ 抱きしめてくれる「リビング」物語

2017/05/17

さあ、次はリビングへどうぞ。どこでもお好きなところにお座りください。
私がリビングに求めたものはずばり「抱かれているような感覚」です。

■雑誌の中の居心地悪そうなリビングルーム■

このタイトルは、けっして見知らぬ方々のリビングをけなしているわけではありません。私にとっては居心地悪そう、という意味です。
他人にとって居心地のよいものが自分にとって居心地がよいとは限らない、むしろ居心地が悪かったりする。これ、当然のことです。けれど、その割には似たようなリビングが多くありませんか? 不思議なことです。
たとえば、とっても広々としていて、L字かなんかの大きなソファがあって、真ん中に大きなテーブル。
こういうのを見ると、私だったら、物をたくさん置いてしまいそうだな、とか、ソファとテーブルが離れすぎている、これは珈琲などを飲むときに大変そうだ、とか思ってしまうわけです。
また、ご家族は多いのに違いない、とも。けれど細かい字で書かれたデータなどを見ると、家族構成三人、などとなっている。これ、またしても不思議です。
きっとこういったリビングを希望する人たちは「日常」よりも「非日常」を大切にしておいでなのでしょう。
今までにもお話してきましたが、私の家創りのテーマの一つとして、「日常」から逸脱しないこと、というのがあげられます。
「非日常」を想定してしまうと、「日常に適さない家の一丁上がり!」となってしまうので要注意です。
家創りは一大イベントですから、そりゃあ、力は入ります。見栄だって出てきちゃいます。完成した家に友人知人を招待するシーン、なんてのを思い浮かべると、とくに見栄が大活躍です。私は見栄っ張りなので、本当に注意が必要なのです。
そしてリビングは、その見栄が活躍しやすい場所の一つです(他には玄関。寝室はプライベートスペースゆえ、見栄が姿を消します)。
なのでリビングに関しては特に、日常から離れないように、用心深く、考えました。

■囲まれ感のある部屋が欲しい■

我が家は三人家族。
昼間、娘は保育園(当時)、夫は夜まで仕事で、家にいるのは私一人です。そして、昼間はたいてい二階の仕事部屋で過ごすので、リビングにはほとんどいません。
リビングを使うのは、もっぱら夜です。娘と過ごしたり、娘が就寝後は本を読んだり映画を観たりします。私は十二時前には眠るようにしているので、平日、ここで夫と過ごす時間はわずか。ほとんど一人です。
こうして考えると、広いリビングなど想像しただけで、
ひゅう。
と肩のあたりを寒い風が吹き抜けてゆきます。
一人でも落ち着けるように。一人でも広く感じないように。
そう!
「まるでリビングに抱かれているような感覚」
これが私がリビングを考えるときのイメージでした。……。なんだか、とっても淋しい女がここにいるような気もしますが、とにかく私はそのようにしたかったのです。「囲まれ感のある部屋に」と言い換えてもいいでしょう。
ですから、すっかーん、と爽やかで開放感あふれる「吹き抜け」など、もってのほかでした。天井が高いのもダメです。それから、大きな窓もダメ。
大きな窓がダメ、の理由としては既にお話した「断熱」のことや「薄暗い部屋が好き」などがありますが、その他に家具のこともありました。
腰窓にすると、その下の空間が実に有効に使えます。床までの窓にしてしまうと、そこに家具は置けません。それも嫌でした。だって、囲まれ感が薄らいでしまいます。
家具の配置も全ては「抱かれているような感覚」のためです。部屋を広く使うには、ソファ等を壁にぴったり寄せるべきなのでしょうが、その逆にしました。
リビングテーブルを、どーん、と真ん中に置くのも好きではありません。たいてい新聞やら雑誌やらがたまり、オットマン代わりに足をのせたりする人が出現します。
リビングでは食事をしません。お茶とお酒です。サイドテーブル、コーヒーテーブル、といった「身軽なテーブル」で充分。そしてこれは「人数や雰囲気に合わせて自由にテーブルを配置できる」ことへもつながるのです。

■三つの表情をもつリビング■
 
「抱かれているような感覚」の他に、私はリビングに「表情」を求めました。
そのときどきに応じて表情を変えてほしい、という意味です。多くなくていい、三つの表情があれば充分です。
①一人きりのための空間
②二人で楽しむ空間
③何人かで楽しむ空間
これを実現するために、身軽なテーブルが必要となるのです。
さて、それでは①からお話しましょう。

①一人きりのための空間
「結婚に必要なものはコミュニケーション。そして一人になれる場所があること」
これはハリウッドのファースト・レディと呼ばれた女優ベティ・デイビスの言葉です。
「イヴの総て」という古い映画がありますが、ベティ・デイビスの迫力がすごかった。駆け出しの頃のマリリン・モンローも出ていて、好きな映画の一つです。
さて、いきなり話がそれていますが、ベティが結婚について言ったのと同様、「一人になれる場所をもつこと」、これを私は大切だと考えるのです。
私がここで言うのは、「そこにいれば、すーっと落ち着いて、一人を満喫できる場所」という意味です。
一人掛けのソファが私の場合、それにあたります。ここに座ると、とても落ち着きます。たいていは、ここで本を読んだり構想をノートに記したりしています。一人きりで部屋にいるとき、二人掛けソファに座ることはまずありません(ごろん、とすることはありますが)。
この一人掛けソファは、オリジナル品。どんなに探しても気に入った柄のソファがなかったので、形だけ気に入ったソファを選んで、お気に入りの布をかぶせました。

②二人で楽しむ空間

夫と映画を観たり、娘と本を読んだりするときは、この二人掛けソファです。
まだ、家の設計段階だったというのに、一目惚れしてしまって前の家に置いておいたのでした。ふんだんに布が使われていて、座部前面の独特のカーヴが気に入りました。
つめれば家族三人も大丈夫なので、三人で映画などを観るときにも使います。このソファ、後ろ姿もかわいいことも、壁につけることなく使えるポイントかもしれません。

③何人かで楽しむ空間

あまりないことですが、お客様がいらして人数が増えたときには、このスペインのアンティークの椅子が登場します。
椅子四脚と、コーヒーテーブルのセットで売り出されていました。残り二脚は玄関ホールと、ダイニングにそれぞれ一脚ずつ置いてあります。もともとは、クラシカル・ピンクの布が張られていましたが、さすがに汚れていたしクッションもかなりへたっていたので、張替えをしました。カーテンに合わせて、赤いヴェルヴェット調にしました。この椅子はどちらかというと、座るより見ているほうが多いです。

そして、移動が一番激しいのが、パキスタンの、ちょっと変わった家具です。私はときどきオットマンがわりにしています。娘はこれにまたがって、「もののけ姫」ごっこをしています(当時)。

■リビングの位置も大切■

また、リビングの場所としては、「ベッドルームと最も遠いところ」にしました。夜、映画を観ることが多いので、大音量でもベッドルームに響かないようにしたかったのです。
リビングとベッドルームの間には、サンルームとダイニングがありますので、全く音は聞こえません。これもとっても便利です。
そういえば、丸山さんとも設計図を眺めながら、「それにしても、完璧な間取りですねー」と頷き合って、
「丸山さんのおかげですわん」
「いやいや、山口さんのセンスですよ」

なーんて、お互いに「オレオレ」「アタシアタシ」と思いながら嘘を付き合っていたものです。

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