軽井沢ハウス

■15話■ 季節によって変化する「サンルーム」物語  

2017/05/17

陽射しが燦燦と降り注ぐこのスペースは、どうしても欲しかったし、どうしても必要だったのです。どうぞ、籐椅子にお座りになってください。

■サンルームというよりシーズンルーム?■
 
いきなり、生活臭いことを言いますが、軽井沢はつくづく「洗濯物を干す」のに向かないところです。いえ、美的観点から言っているのではありません。 

①木が多い→葉や、実が落ちてくる
②虫が多い→くっついたり、ときには卵を産んだりする
③湿度が高い→晴れている日でもじっとりしっとり
④高原である→天気が変わりやすく、突然の雨はしばしば
⑤冬は寒い→外に干すと洗濯物が凍る

この五点を、二年に及ぶ賃貸生活で、いやというほどかみしめた私は、家をつくるときには、この洗濯物問題をなんとかしなければ、と思っていました。まず、頭に浮かんだのが、サンルーム。
しかしながらサンルームにも色々あって、知り合いの家で目にしたのは、まさに洗濯物を干すためだけにつくられたような味気ない空間でした。言ってみれば「囲いつき洗濯干し場」。……避けたいです。あくまでも「洗濯物も干せるのよ、いざというときにはね」と、きどりたいのです。
それに、繰り返しになるけれど、「古くて暗くて狭い家」とはいえ、全てがそれだと性格がどんどん暗くなってしまいそうなので、一部屋だけ、すかーん、と明るい部屋が欲しかった。
朝食を朝陽の中でとったりして、夏は、テラスと一体化するようなかんじの、それで洗濯物も干せるのよ、という、そういう部屋が私は欲しい。
洗濯物が凍ってしまう冬は濯物を干すスペースに。夏はテラスとして。それは、季節ごとに用途が変わる部屋……そう! 「シーズンルーム」!
と、このように一人盛り上がる中、丸山さんとの闘い、いえ、打ち合わせに入ったのでした。

■「サンルーム」の呼び名について■

闘いとは言っても、サンルームに関しては「広さ」をめぐる攻防に終始しました。
ええ。ここでも「予算」という敵が。
図面を見ながら「もう一声! もうちょっと広く」と私が言えば、「それは無理ですよ。じゃあ、ダイニングをもっと狭くしますか?」と、丸山さん。
「だって、こんなに狭かったら蟹歩きしなくちゃいけないじゃありませんか」
「いい運動になるかもしれませんよ」
「ひどいです。丸山さん」
「冗談です。山口さん」
結局のところは、ちょうどよい広さのサンルームになったと思います。
ところで、先ほどから私は「サンルーム」と連発しておりますが、当初はその単語に、知人宅で見た味気ない「囲いつき洗濯干し場」をイメージしてしまっていたので、ひどい拒絶反応がありました。
なので打ち合わせの際、丸山さんは大変気を使われたことでしょう。私が「サンルーム」と口にするのを禁じたからです(いやな客)。
最初は「コンサバトリー。そうです! コンサバトリーと呼びましょう」と提案(強制)しました。そうしたら丸山さん、「それ、なんか違うかんじがしますね」なんておっしゃいます。むむむっ。
早速コンサバトリーについて調べました。
語源はフランス語の「Conserve」(保存する)。イギリスで建てられたのが始まりですが、もともとの用途は語源につながります。つまり、南欧各地から持ち帰ったフルーツを保護するために開発された温室だったのです。現在は、私的に翻訳すれば「コンサバトリー=イギリス式高級ちっくサンルーム」ということになるようです。
そして、このコンサバトリー、ときには「ガーデンルーム」と呼ばれることもあるのだそうです。
ガーデンルーム! うーん……。
なぜここでうなってしまうかというと、私はグリーンを育てるのが苦手。というより、好きではないのです。言い換えれば、嫌いです(ああ。こういうことを公表することは、「子どもが嫌いです」「ペットが嫌いです」と言うのと同じくらい勇気がいるような気がします)。
ですから庭仕事が好きな人、グリーンを部屋じゅうに置いている人などは、もうそれだけで私の尊敬の対象となるのです。
だって、私は自分が生きていくだけで精一杯。そこに娘が登場し、すごい重圧、いえ、
責任感とハードな愛情におしつぶされそうなのに、そのうえ、手をかけなければ死んでしまうもの(植物)に囲まれたりしたら、正気を失います。
何を言いたいのかといえば、私はその部屋をグリーンでいっぱいにする、なんて夢にも思わないので、「ガーデンルーム」と呼ぶ資格がない、ということでした。
さらに、その起源が「温室」であったなんて、しかもフランスじゃなくてイギリスだったなんて。がーん。しょっくだわ。
私は丸山さんに言いました。
「すみません。コンサバトリーと呼ぶのはやめましょう。シーズンルームにします」
 丸山さんはおっしゃいました。
「ますます、わけのわからない呼び名になってきましたね」
 ……。
あれから一年のときが経ち、今は、お互いに
「よいサンルームですね!」
「最高のサンルームですね!」
「ありがとう、丸山さん、こんなに素敵なサンルームをつくってくださって!」
「いえいえ、このサンルームは山口さんのアイデアが満載ですよ!」
と、いつものように、ついつい「本心ですか」とお互いにつっこみたくなるような賛辞を贈り合って、そしてふと気づけば。軽井沢ハウス唯一の明るい部屋は、今や思いっ切り「サンルーム」となっていたのでした。

■キャンドルのような照明が欲しい■

ところで、サンルームって、夜は何に使うのでしょうか。どう考えても、あまり用途がないように思います。だって名前からして「サン」ルーム。太陽が姿を消した後、いったい何が残るというのか。答え。それは、闇です。
いえ、ふざけているのではありません。闇。素敵ではありませんか。夏の夜など、夜風を感じながらお酒を飲むには最適な場所です。
もちろん、外のテラスで飲んでもオッケーですが、私の場合は虫が気になりお酒に集中できないので、網戸つきサンルームは好都合なのです。
と、このような利用方法を考えていたので、サンルームの照明は「うっすらとひかえめな、虫が集まらないような」が、ポイントになりました。
そうね、中世ヨーロッパのお城の廊下にあるような(あくまでもイメージです)壁に取り付けられたキャンドルみたいな、そんな照明がいいわ。
というわけで、オールドフレンドで、そんな照明を探したわけです。ところが、ここでも「予算」の壁が!
キャンドル型のウォールライトは、なぜか高額なのです。でもどうしても諦められない私は、いつものように「名案はないものか」と、ねばりました。
そして、数々のウォールライトを強く見つめます。きらびやかな照明に、しだいにくらくらしてきます。そして実際にくらくらっと視界が揺れたとき、ひらめいたのです。
そうだ! カバーをとってしまったらどうか!
つまり、こういうことです。上向きのウォールライトのガラスのカバーをとったら、
シャンデリア球が剥き出しになります。それって、まるでキャンドルのようでは?
さっそく丸山さんにご相談。
「いけるかもしれませんね!」
「でしょー?」
「それだったら、安い! 予算内ですよ!」
「やったー」

■タイルみたいにテカったテラコッタ■

サンルームの床についても、けっこう考えました。
というのもサンルームの床材によく使われてる「素焼きのテラコッタ」、これに私は意味もなく照れるという性質を持っていたのです。
テラコッタ。素焼き。純粋で爽やかでかわいいイメージ……そう、「ナチュラル」に通ずる何かが、そこにはある。というわけで、かなり抵抗があった。
けれど、あるとき雑誌で見つけたのです。そこにはヨーロッパの田舎家が紹介されていて、そこに「素焼きじゃないテラコッタみたいな床」があったのです。
そこで早速丸山さんにご相談。もちろん、雑誌を持参しています。
「ああ、山口さん、これは、テラコッタじゃないですよ。タイルですね、タイル。冷たくて硬いかんじになりますよ」
「ふーん。テラコッタでこんな雰囲気にするには、そうだ! 上に何か塗ればいいんじゃないかな。テカってるかんじが出したいんです」
「みなさん、素焼きが好きなんですけれどね」
「私はダメ。照れてしまうのです」
「よくわかりませんねえ。まあ、とにかく、一番濃い色のがいいんでしょう? それを入れることにして、塗装はまた考えましょう」
ということになり、結局最後にワックスを塗って出来上がり。照れなくて済むだけではなく、汚れにくいテラコッタになりました。

 

★★★内緒のベッドルームについて★★★

ベッドルームとバスルーム(洗面所、トイレ含む)は近くがいい。これは間取りを考える段階から、絶対通したい、と気合を入れていたことでした。
朝陽が入る東側希望、と合わせると限られた空間ですべてをうまく配置するのは大変難しく、何度か「ベッドルーム」が二階に追いやられそうになりました。けれどなんとか初心を貫くことができてよかった。
私はどうしても一階を生活スペース、二階は仕事のスペース、とくっきり分けたかったのです(これについては二階をご案内したときにお話します)。
軽井沢ハウス設計の段階から、「日常」から離れないように用心していたわけですが、バスルームとベッドルームの配置については、次のようなイメージがありました。

①起床した後、洗顔、トイレを済ませて、朝食。
②夜中にトイレに行きたくなったとき、寝室の近くがいい。
③洗濯機から洗濯物を取り出して、ダイニングを通らずに、干したい。

また、これらとは別に、もう一つこだわりがありました。それは「究極のプライバシー」(というほどでもないが)の確保です。とにかく、自分たち家族の他は立ち入らない場所、それが可能な空間にしたかったのです(雑誌等の撮影でも、ベッドルームは入らないようにお願いしています)。
それから、取材を受けたときなど「さぞかし立派なクローゼットがあるのでしょうね!」となぜか言われることが多いのですが、ベッドルームのクローゼットは、ホテルを意識してはいますが、これ以上はないほどにシンプルで小さいです。ウォークインのタイプにすると、無駄な服がたまる一方だという恐れがあり、避けました。
そのシーズンに袖を通す服って、数えてみるとそんなに種類はないものなのです。クローゼットを小さくしておくと、常に、何が必要で何が不必要なのか考えることになり、いわゆる「たんすの肥やし」を蓄えないで済みます。

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