▽ひまわり(「映画音楽と物語」より)
2017/02/20
マルチェロ・マストロヤンニとソフィア・ローレンが主演した、1970年のイタリア・フランス・ソ連の合作映画。監督はネオレアリズモの一翼を担ったヴィットリオ・デ・シーカ。音楽はヘンリー・マンシーニ。
映画にこめられたメッセージ、映像、色彩、音楽。ひまわり畑の圧倒的な生命力。そこに眠る戦争の犠牲者たち。丘一面に広がる戦士たちの墓。そして戦争で引き裂かれた恋人たち。その後の、それぞれの生活。
そう。どうにもならないなかで、引き裂かれた恋人たちは「それぞれの生活」をしています。
彼らが再会し、新しくやり直そうと一瞬思うけれど、それでも、やはりそれはできず、「それぞれの生活」のなかへ戻ってゆく。ソフィア・ローレン演じるジョヴァンナが、マストロヤンニ演じるアントニオに言います。
(あなたが結婚して子どももいると知って)「自殺しようと思ったわ。でもしなかった。愛がなくても人は生きられるのね」
「愛がなくても人は生きられるのね」、このセリフの奥にある物語を思います。
つまり、「愛がない」生活を二人はそれぞれにしていて、けれど、それぞれには相手がいるのです。その相手のことを思うと、とてもせつなくなります。
ジョヴァンナは「それぞれの生活」、自分の結婚生活を以前のアントニオのときの結婚生活と比べて「愛がない」と言い、そしてアントニオも「それぞれの生活」であるロシアでの結婚生活のなかには「愛がない」と感じているのでしょう。けれど、厳然として、「それぞれの生活」のなかに、想いをもった、愛をもった人たちが生きているのです。
出会ってすぐに戦争で引き裂かれた恋人たち。想いが絶頂のときに引き裂かれ、惹かれあった、短い時間の思い出が強烈で、そしておそらく、それは絶対的な出会いだったからこそ、忘れがたい。それはよくわかります。
人生のなかでは、絶対的な出会いとそうでないものがある。そう思います。
それでもこの恋人たちが引き裂かれないままの十年後を想像してみれば、白けた空気に支配されていることだって充分想像できるのです。
そんなふうに、少し冷静に眺めてみようと思ってはみても、やはりいつ観ても涙してしまうのは、もう、どうしようもない、このようにしかできなかった。それでも生きる。そういう人たちが愛しくて、せつないから。
ヘンリー・マンシーニの「ひまわり」のテーマ曲は、ロシア戦線の場面を除いて、ほぼずっと流れています。
ひまわり畑のシーン、二人の再会のシーン、そしてもう二度と逢うことはないだろう、別れのシーン、両方ともプラットホーム、あふれるほどにのかなしみで壮絶な力をもったメロディが画面からあふれ、どうしようもないほどに胸、かきたてられます。
★作曲 ヘンリー・マンシーニ 作詞 ボブ・メリル 訳詞:直村慶子「ひまわり 愛のテーマ」をお聴きください。
★2016年12月21日「語りと歌のコンサート~映画音楽と物語」台本より。