ゆかいな仲間たち よいこの映画時間

◎58本目『マティアス&マキシム』


【あらすじ】
友人の妹から頼まれ、短編映画で男性同士のキスシーンを撮ることになった幼馴染のマティアス(ガブリエル・ダルメイダ・フレイタス)とマキシム(グザヴィエ・ドラン)。
そのキスをきっかけに、ふたりは互いのことを意識しはじめるのだが…。

※2020年11月現在、公開中の作品です。
ネタバレもありますので、お気を付けください。

路子
路子
りきちゃん、どうだった?
先に路子さんの感想を聞きたいです。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
私の感想?
自分の中のピュアな恋心とかが、なくなってしまったのかもしれない(笑)。
この映画は、ドランが20代の頃を思い返した映画なんですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
うん。でもあまりにもピュアすぎて。
繊細で微妙な感覚が描かれているんだろう、というのは分かるのだけれど…新鮮な路子ちゃん戻ってきて!と、思いながら集中して観てた。
戻って来ましたか?
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
なんとなく。
でも、そういう感覚が薄れてしまっているのがショックだった。

路子
路子
ある一定の年齢の女性たち、50歳以上くらいの感じかな、そういう女性たちの描き方…みんな愛はある人たちだから、決して悪い人ではないのだけれど、怪物的な描かれ方をしていたね。
がははは的な。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
昔はやったオバタリアン的なガサツ系のね。
路子
路子
ドランの映画って、彼女たちいつもそんなふうに描かれているけれど、今回は集団でいたから、特に際立っていた。ドランは年配の女性たちを別の人種だと思っている節があるけれど、嫌いという感情や憎しみを持っているわけではないのよね。
母親ふくめて、彼女たちからの愛情が欲しいから、その裏返しとして、悪意みたいなものも感じる。

強がり?
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
うん。自覚していると思う。
こんな怪物みたいな人たちだけど愛されたい、というのがよく分かる。それにしても根深い!
ずっと描き続けていますもんね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そう。そして今回はその部分がサイドストーリーになるはずだけれども、割とメインストーリーのような感じもするの。
私も思いました。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
恋愛が中心にくる話なのであれば、そこを際立たせるサイドストーリーになるはずなのだけれど…。
恋愛中心ではないですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そうよね!
今回の映画は恋愛映画とか、ピュアなラブストーリーと言われていますが、生活の中のほんの一部に恋愛部分が描かれているぐらいで、他の生活も同じくらい際立ってましたよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
お母さんとの確執とかの部分も多い。あとは、友達との関係性もね。
その部分は大きかったですよね。
りきマルソー
りきマルソー

ドランが「僕にとってこれはゲイについてではなく、人生についての映画なんだ」と、言っているんです。
多分、映画の配給的には恋愛推しなんでしょうけど、この映画って本当に人生についての映画。人生のあるシーズンを切り取って、しかも満遍なく切り取った、ごく「普通」の日常を描いた映画。レンタルのDVDで言えば、恋愛というよりは、ドラマとかに入るジャンルですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
うん。ラブストーリーや恋愛映画ではなく、ドラマや、ヒューマン、青春映画の部類。
恋愛映画と思っていたから、気合いの入った観方をしてしまったけれど、ラストの終わり方を観て、そんなに気を入れなくても良かったのかな、と思った。
ふたりきりで盛り上がる「あのシーン」が出てくるまで、ずいぶん引っ張るな、と思っていたけれど、その後も特に触れたりしないもの。

宣伝では、友達の妹が撮るマティアスとマキシムのキスシーンがいかにもメインみたいになっていましたけど、一瞬のシーンでしたもんね。
だからあの宣伝の仕方は、映画の本質を裏切ってしまっているような気がします。
そして、ドランの「この映画のテーマは決して同性愛ではない。テーマは愛なんだ」という言葉に対して、普通の恋愛の話だ、という配給の仕方は…まあそうかもしれないけれど、その強すぎる推し方は違うよねって思います。
りきマルソー
りきマルソー
あとは、この映画を観て、ドランの言葉に対する返答かのように、「あっ、本当に普通の恋愛映画だったね」って言う人もいて。「お前、それは違うんじゃないかい?」と言いたくなる。なんか色々引っかかるんですよね。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
ママとの怒鳴り合いとか、友達同士のバカ騒ぎが多いのは、ちょっと苦手。
『マイ・マザー』(グザヴィエ・ドランの初期作品)、途中で観るのをやめたって言ってましたもんね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
あと、映画を観る前に酔っ払いの話をしていたから、余計にね(笑)。
アルコール問題。私も人のこと言えないんだけど。
マティアスとマキシムが喧嘩をして、マティアスが「アザ野郎」と、言ってしまったのだって、きっとアルコールが入っていなければ言っていなかったと思う。
あのシーンで、信頼している友人同士の空気が凍りつきましたよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
アザがある設定にしたのは、なぜかしら。
あんなに目立つアザがあったら、何かしらの反応をする人がいるような気がしますけど、「アザ野郎」のシーンまで、誰一人としてそこに触れないですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
マキシムは顔にアザがあることで、色々な傷を負ってきただろう、ということにも一切触れない。
触れているのは、喧嘩の時と、鏡に向かっている時ぐらいですもんね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
自分がマイノリティであることの何かを表現したかったのかしらね

路子
路子
クラシック以外は初めて聴くような音楽ばかりだったけれど、使い方がやっぱり「ザ・ドラン」という感じ!
クラシックが多かったですね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
おばさまたちは誰も聴いてくれないし(笑)。
ピアノのシーンですね(笑)。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
音楽と映像で高揚させるのが、本当に上手い。

路子
路子
この作品は、何かの映画に感銘を受けて作ったのよね?

『君の名前で僕を呼んで』です。
元彼と別れる直前くらいに、手を繋ぎながら観た思い出が(笑)。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そのことで涙が出そうね(笑)。
私は観ていないのだけれど、りきちゃんとしては、どちらが良かった?
全然種類の違う映画なんですよね。
『君の名前で僕を呼んで』は、それこそ恋愛が中心軸です。恋愛初期のわくわく感や欲望がストレートに描かれていて、とても美しい作品でした。
その時は、彼氏と今このタイミングで一緒に観た、ということに何か意味があったような気がしました。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
マティアスが、出張で来ていたケヴィン(ハリス・ディキンソン)とストリップを観にいっているシーンで、結婚や貞操について話していたでしょう?
今の時代、ちょっと婚外交渉をするだけで叩かれちゃうでしょ。私は、婚外交渉を責めるのはナンセンスだと思っていて。だって人間だよ?(笑)
だから、いま、結婚制度そのもの、貞操とは、欲求とは、不倫って何?とか、浮気ってどういう意味? ……そういうことを歴史的な観点から研究してみるかな、なんて思っているところだったから、興味深かった。
ケヴィンは典型的なストレート男性のような人物でしたけど、彼もマティアスに対して、何かしらの興味を持っていたように感じました。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
マティアスとマキシムは、撮影の時のキスをきっかけに、同時に惹かれ合い始めたのかな? それとも自分に同性愛的な傾向があるということに無自覚だったのかな?

私は、キスの前はマキシムはマティアスを、キスの後はマティアスがマキシムを意識しているような目線を感じたんですよね。
りきマルソー
りきマルソー
ドランはインタビューで、ふたりともストレートの設定だって言っていますけど…いまいち男同士の友情っちゅうものがよく分からないんですよね
昔から友達以上の気持ちがあったのか、その気持ちに気付かなかったのか、気持ちはあったけれど気持ちに嘘をついていたのか、片一方は恋愛対象だったのか、本当に「ただの友達」だったのに、キスが起爆剤みたいになって、その日を境に突然気持ちの変化が訪れたのか…そこは正直分からないですね。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
マキシムはバスの中で可愛い男の子に微笑まれたり、微笑みを返したりしていたでしょう?
ストレートとして生活をしていたとしても、何かしらの興味みたいなものを、潜在的に持っていたのかもしれないですね。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
ラストの方で、マキシムが、7歳の頃にマティアスが書いた農場の絵を見て泣き出すけれど、例えば、その頃から家族ぐるみで付き合いをしてきた友達、彼らの友情が30歳頃になって、初めて恋愛や欲望になることはあるのかしら。
異性愛の場合は、友情から恋愛へとわりと抵抗なく入っていけるけれど、同性愛の場合は、まずそれはあり得ない、という所からスタートわけでしょう?
そこが決定的に違うよね。
それはそれとして、ずっと幼い頃から知っていた友達に対して、突然に欲望を抱くものなの?
マティアスはキス以来、寝ても覚めてもみたいな感じになるのに、ラブシーンでは、自分は手を伸ばしておいて、逆に手を伸ばされると拒絶してしまうし…。

やっぱりヘテロの恋愛として観るのは、難しいんですよね。
路子さんがさっき言っていたように、ストレートの男女だとすんなりいくものが、
同性同士になると、難問のようなものが間に入ってきてしまう。そこには、葛藤や痛みがあるから、それらを分からずして、「普通の恋愛」だと言うのは、やっぱりちょっと違うし、無神経。
りきマルソー
りきマルソー
柳美里が「他人の痛みを思い知れ、などという言葉を平気で口にできる人は、他人の痛みを想像する想像力が欠如していると思います。大切なのは、他人の痛みを痛むことはできない、ということに痛みを感じるかどうかなのでは」と、言っているのですが、軽々しくそう言っちゃう人って、他人の痛みを想像できないような人なのだと思います。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
難しいね。同性愛なんて特別に変わったことではない、って、それはたしかにそうだとしても、それを主張しすぎると、なんだか意識しすぎていて、逆に偏見が見えてきてしまうみたいな。
なんやかんや言ったり、言われたりすることなく、本当に「普通」みたいにして描かれる日は来るんですかね…。まあ、やーやー言いたい人の気持ちと、やーやー言うなという人の気持ち、両方分かるから、なんとも言えないんですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
言いたくなるということは、何か引っかかるから言いたくなる訳で、それだけの引っ掛かりがあるということは、ある意味の成功かもしれない。
注目していることには変わりないですもんね。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
同性愛者の立場から見て「当事者ではない人が何を言うか!」みたいなものは、りきちゃんの中にあるの?
もちろんありますよ。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
それって、子どもを持っていない人に、子育てについてあれこれ言われたくない、というのと似ているのかなあ。……まあ、経験者ではない人に何か言って欲しくないというのは、誰でもあるわよね。

路子
路子
私は、同性愛について語る際に、同性愛者に対して偏見を持っていません! みたいなオーバーな書き方に対して、ものすごく抵抗があるの。

それはわかります。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
その時点で上から目線になっている気がする。マジョリティ目線?
そこなんですよね。今回、「普通の映画」だと言っている人たちの発言は、そんな感じがするんです。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
「私たち差別をしていないし、偏見も持っていない」というのを主張したい人たちの言葉なのよね。私はその言葉を口にするときに躊躇する気持ちが大事だと思う。私はそういうことを無神経に叫びたくはない。
マイノリティの中でもさらにマイノリティを作るくらいですから、全く偏見を持っていないとか、差別しないという人は、いないと思うんですよね。私だって女性と仲が良かったりするけれど、ミソジニー的な考えを持ってますし。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
差別、偏見…絶対に何かしらあるわよ。
と、言いつつも、上から目線の人たちに対して壁を感じていたり、羨ましさや憧れを持っていたりもするような気がするんですよね。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
ドランは「普通」って言っているけれど、やっぱり同性同士、ってところで、そこには障害があると思う、というのが正直なところなのよね。
さっきも話したけれど、これが男女の幼なじみであったら、恋愛に発展する可能性はもっと早くからあったと思うし、それを自分の中で認められないというところに「障害」というものを感じる。もちろんラブストーリーなのだけれど、やっぱり男同士が惹かれ合った時のラブストーリーなのだと思う。
それで良いような気がします。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
そっちの方が不自然じゃなく、現実だもの。
時代は、ドランがそういうことをわざわざ言わなくても良い時代になってきているのかもしれない。でも、それでも騒ぐ人がいるから、あえて言うんだろうなぁ(笑)。
路子
路子
この先、あのふたりはどうなると思う?

マキシムはオーストラリアに行くと思いますか?
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
あのくらいだったら行くと思う。2年経って戻ってきて、また悶々すると思う(笑)。
何もないってことはないと思います。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
でも、かと言って、オーストラリアに行かなくなったり、マティアスがマキシムに会、とかはいに行くなさそう。
一瞬の通過点みたいなものだったのかもしれませんね。
りきマルソー
りきマルソー

後に、路子さんがこの映画についてブログを書いています。
私がうまく表現できなかったことを、そして路子さんが想ったことを言葉にしてくれました。
ぜひ、そちらも読んでみてください。
■ドランの「マティアス&マキシム」、アイデンティティを追求する覚悟

~今回の映画~
『マティアス&マキシム』 2019年カナダ
監督:グザヴィエ・ドラン
出演:ガブリエル・ダルメイダ・フレイタス/グザヴィエ・ドラン/ピア・リュック・ファンク/サミュエル・ゴディエ/アントワン・ピロン/アディブ・アルクハリデイ/ハリス・ディキンソン/アンヌ・ドルヴァン/ミシュリーヌ・バーナード/キャサリン・ブルネット/マリリン・カストンゲイ

-ゆかいな仲間たち, よいこの映画時間