ゆかいな仲間たち よいこの映画時間

◎18本目 「愛されるために、ここにいる」

8月といえば、路子さんがタンゴを始めた大事な月。
言葉美術館の「タンゴ記念日」はもうご覧になりましたか?
今月より、タンゴを扱った映画をいくつか挟んでいく事にした私達。
1本目のタンゴ映画「愛されるために、ここにいる」です。

み:今迄に何回か観ていて、改めて観たけれど、今回が一番感動した。

り:前回観た時は、タンゴを始めてましたか?

み:最近、タンゴっていつ始めたんだろうって思って調べたの。「ラスト・タンゴ」を観たのがきっかけで、四谷のシンルンボというタンゴバーに行って、なかやまたけしさんに習い始めた。「ラスト・タンゴ」を観た日か、初めてシンルンボを訪れて1曲踊った日、どちらをタンゴ記念日にしようかと思った時、やっぱり踊った日かなと思った。調べたら2016年の8月3日だったから、その日が私の「タンゴ記念日」。その8月3日から、タンゴが我が人生の一部になっているという事を公表をして、色々な所へ書いていこうと思ったの。

前回観た時はタンゴを始めてすぐか、始めようと思ったかくらいの時だと思う。その頃タンゴ映画をずっと観ていたの。タンゴシーンがあるものをほとんど観ようと思って。前回観た時も、この映画には私の好きなタンゴの世界が良く描かれていると思った。自分が1年タンゴをやってきて、よりタンゴへの愛が深まっているし、曲も分かるようになってきてる。そういった事をふまえて観ると、普通ならこんなだったっけ?って思う事が多いけれど、逆だったの。本当に素晴らしい映画だったし、名作の一本に入れようと思った。自分が名作だと思う「ピアノ・レッスン」や「めぐりあう時間たち」、「ハンナ・アーレント」とかと並ぶ一本に入れようって思うくらいにすっごい良かった。やっぱり2人がタンゴを踊るシーンが秀逸。何がそんなに良いんだろうって思ったの。タンゴって凄く「相性」があるのよ。

り:前に路子さんが話してましたよね?

み:うん、話した。

り:それを映像で観た感じ。路子さんが言っていた話、あれだ!っていうのが凄く分かった。違う人と踊っていてもあんな風にはならないのに、肌と肌で分かるみたいな。


り:アンヌ・コンシニは昔からちょこちょこ映画で観ていて知っていたんですけど、普通に見ると本当に普通の人。でも踊っている時とかちょっとした仕草、あとは目線とか横顔が凄く愛らしいし、光って見える。

み:あの映画はタンゴを踊っている時の2人が良いっていうのもあるけれど、フランソワーズ役のアンヌ・コンシニの表情と、身体から滲み出るこの人と踊っていて本当に気持ちが良いっていうのが全てだと思う。パトリック・シェネ演じるジャン=クロードって50歳っていう設定なの知ってる?

り:もうちょっと上だと思ってた。

み:私もその事を昔ブログに書いているんだけれど、アンヌは実年齢と役柄の年齢が相応。でもジャン=クロードは実年齢の方が上なのよ。私今51歳だし、50歳って言われてしまうと、こんななのかあって感じがしてしまう。年齢をもうちょっと上に設定すれば良かったんじゃないかって思った。見た目も50歳には見えないものね。
全然冴えない男だし、自分の小さい頃を知っている人なんて恋愛の対象外のはずなのに、まだ上手では無い最初の段階で踊った時に、既に何かを感じてる。

り:全然踊れないのに、そう感じてる。色々な人と踊って皆が嫌がる中、何故か。

み:そうそう。最初から2人は何かを感じている。ラストの最高のタンゴシーンの時には、2人とも上達しているからっていうのもあるけれど、本当に2人の気持ちとタンゴを通してのコミュニケーションが凄く描かれている。

タンゴって男と女の3分間のドラマって言われていて、アクロバットみたいな事をするステージタンゴと、サロンタンゴっていう皆で映画の中で出てきたみたいに踊るのがあるの。私はステージタンゴにはあまり興味が無くて、サロンタンゴの方が好き。


み:この作品を作った人って、そういう世界を凄く知ってる人だと思っていたの。でもDVDの特典映像を観たら、監督の口から特に「タンゴ」っていう言葉が出てこなかった。これを表すにはタンゴが良いと思ったっていうくらいにしか。タンゴというものに何かを託しているのであれば、もっとそこで語ると思っていたからそこが腑に落ちない。

アンヌのインタビューの中でああそうなの?って思った事があったの。フランソワーズは婚約者がいる身で、年上のおじさまとのタンゴに傾倒していくけれど、フランソワーズはジャン=クロードと踊るタンゴが好きなのであって、タンゴに夢中になっている中でタンゴの世界で相性の良い人がいて、それを凄く心地良いと思ってる。でもそれはそれ、現実世界は現実世界だから、それが恋愛に発展する事は無いってアンヌ自身は思ってるみたいなの。そこが意外だった。あの2人ってどう思った?

り:タンゴの中の世界だけで収まる感じでは無い感じはした。

み:そうよね。この先彼らは、恋人として付き合っていくのかなって。その先を考えるとすれば、結婚をやめてジャン=クロードと付き合うのかなくらい思ってた。
フランソワーズの母親が結婚式の席順を決めているシーンで泣き出すでしょう? あの場面は良く分かる。自分のいるべき場所が違うって事に気付いた瞬間の涙かなって。他に想うものがあり、そちらの方が大切だと思ったからこその涙。だからこの2人は恋人になるって思ったのだけれど、なんだか違うみたい。演じるアンヌがそう言っているっていう事は、監督もそう思っているって事でしょう? だからちょっとがっかりしたの。

でもその後タンゴの世界を自分で考えた時に、ああでもそれも分かるなって思った。要するにタンゴが好きで、相性の良い人がいる。けれどもその人と実人生を共にしたいかというと、それとこれとはまた別という感覚。だからそれをふと思った時に、ああ、この感覚でそう感じるのかって思うと分かるような気がした。


り:ジャン=クロードはフランソワーズに婚約者がいると分かり、自分が恋愛の対象にならないと分かった時に物凄く怒る。 その後に聞き耳を立てていた事務所のおばさんに…。

み:あのおばさんは、彼女はジャン=クロードの事を実人生で好きなのよって言ってるのよね?

り:そうそうそう。そうじゃなきゃジャン=クロードも彼女の元に戻ったりしないような気がするんですよね。

み:そのあたりがもしかしたらフランス映画的で、実人生でもジャン=クロードを好きだけど、マリッジブルーで揺れ動いてそうなった訳では無い。凄く好きなんだけど、だからといって婚約者との結婚をやめるって事では無いのよっていう感じかしら。それはそれ、これはこれ。結婚相手の事もそれなりに愛しているし、ジャン=クロードの事も愛している。2人好きな人がいる状況なのよ。だけど結婚をやめるという選択肢は無くて、2つを楽しもうっていう事だと思う。

り:そっち側は何となく分かるんですけど、ジャン=クロード側がいまいち。

み:それを理解したんじゃないかしら?

り:納得した上で?

み:納得というか、それでもいっかーみたいな。自分のお父さんが亡くなったり、聞き耳のおばさんの言葉もあってか、人生は短い…ではないけれど、好きなように生きたり、自分に素直になるっていう感情が出てくる。だからその時にジャン=クロードが感じた事って、良いじゃん別に!って事。彼女は自分の事を好きだし、自分も彼女の事が好き。彼女とタンゴを踊るのも良いから、いいじゃんっていう所へ行ったと私は思う。

これは私がタンゴをやっていて思うのだけれど、タンゴってそういう風な思考回路に持って行く力がある。自分の欲望とかをもっと出して生きていこうとか、そんな風にさせる力があるような気がする。というのも、私はタンゴを始めて色々なものが開いていったから。だからあれがタンゴだったから、ああいう風になったんだろうなっていうのもちょっとある。ああだこうだきちっきちっと決めなくても良いって思ったんじゃないかしら。

り:そう思ったからこそ、息子に自分と同じ人生を歩まないで欲しいって言って、事務所を辞めさせたりしたのかもしれないですね。

み:そうなのよ。タンゴ教室に戻った最後のシーンで、他を見ていたフランソワーズが彼の存在に気付いた時に、いつも仏頂面しているジャン=クロードが微笑んでいるの。あの微笑みが私は凄く好き。その微笑みでフランソワーズを見ると、彼女も気付いてちょっと上目遣いで可愛い顔をするのよね。さすが映画。その瞬間に周りの人々がぱんっと消えて、タンゴシーンになるけれど、あそこは本当に美しい。タンゴ映画を色々観てきたけれど、「ラスト・タンゴ」は別格として、タンゴが出てくる映画なのかでは一番好きかな。


り:肉欲的に描けば物凄く分かりやすいものを、そこをなるべく省いて描いているじゃないですか?

み:一切出てこないものね。

り:キスくらい。それであそこまでの情熱であったり、相手との相性を描いてる。しかも分かりやすいですよね。路子さんから相性の話を聞いていたからそう思った部分もあります。聞いていなかったら何となくで観ていたかもしれない。

み:そこまで反応はしなかったかもしれないわね。

り:初歩的な感想を述べるとすれば、タンゴってもっと激しく動くものだと思ってました。イメージだと、「アダムスファミリー」のお母さんとお父さんのタンゴシーン。

み:分からない(笑)

り:その映画のタンゴシーンが確か激しめだったので、そういうイメージがあった。実は物凄くスローリー。

み:あれは特にタンゴの中でもあんまり高度なステップも無く、ただ移動してるくらいの感じなんだけど、あれで私は十分。それにちょっとステップが入ったり。ちょっとタンゴに対する認識が変わったでしょう?

り:うん。

み:身体を左右に揺らしてるだけでも何か分かるような。最初彼がぎこちないリードで始めるけれど、んん?っていう顔をして良さを感じている場面があるけれど、あれも良く分かる。

り:時間が止まるような感じなんですかね。ただでさえスローなダンスなのに、その世界に入ると周りがスローに見えるくらい入り込んでいる感じ。

み:そうそう。本当に2人の世界。周りはどうでもいい。よっぽど嫌な人ではない限りは、相手に集中して1曲をどんな風にリードしてもらい、私はリードに合わせて自分なりの表現をして、どんな想いで踊るのかっていう事に集中する感じ。激しいタンゴのダンスでは味わえないようなものがある。
これからタンゴ映画を何本か観ていくと思うけれど、この映画が際立つと思う。だってりきちゃんが女の人が好きだったら絶対に薦めてるもの。でも女の人と踊ってもつまらないでしょう?

り:うん(笑) でもゲイのタンゴスクールってあるんじゃないですかね?
周りが見えなくなるっていうのは、あのシーンで象徴されていますよね。2人が踊っている時に、フランソワーズに言い寄っている男がずっと睨みつけているシーン。

み:(笑)うんうん。



~今回の映画~
「愛されるために、ここにいる」 2005年 フランス
監督:ステファヌ・ブリゼ
出演:パトリック・シェネ/アンヌ・コンシニ/ジョルジュ・ウィルソン/リオネル・アベランスキ

-ゆかいな仲間たち, よいこの映画時間