ブログ「言葉美術館」

◾️雪とオプションと

2018/01/23

 

 どうしても今日投函しなければならない書類があり、雪が降るなかを数分歩いただけで、せつなさがこみあげてきた。

 軽井沢の風景。

 初雪。

 降り続いたり積もったりすると雪かきという問題が出てきて、うんざりだったけど、11月に入ったころから毎年、そう、毎年10年間、私は初雪の瞬間を待ちわびていた。そして初雪を見たときはすぐに車を走らせた。常緑樹の森のなかで初雪を感じるのが好きだった。ふたりのときもあったし、ひとりのときもあった。

 過去美化は得意とするところだから、とあらゆるものをとりさってみても、やはり、あの美しさは忘れがたい。

 おそろしいほどにぼたぼたと空から落ちてくるいつかの2月の雪のように、軽井沢での日々の思い出が落ちてくる。

 夕刻、早めに娘が帰宅して「雪だね」と言った。「軽井沢の雪が見たい」と私は答えた。「東京の雪は雪なんかじゃない」。娘が同意し、だから軽井沢に行こうよ、と言ったけれど私ははっきりとした返事ができなかった。

 まだ、だめなのだ。東京に移住してからもう7年が経とうというのに、まだ。軽井沢の家の一室に集められた数々のモノも、そろそろ整理して処分しなければならない。けれど、とてもじゃないけどいまはまだそんなことはできない。いったいいつになったら、ここから解き放たれるのだろう。

 先日、親友と久しぶりに会って、たくさんおしゃべりをした。彼女の話を私は聞き、彼女が私の話を聞いた。笑いと涙のなかで。

 この間ね、男友達と話をしていてね、彼が私のことを人気者だね、幸せなひとだね、って言ったの。私はそれに対してすぐにこう答えていたのよ。でも、オプションですから。私はみんなのオプションなんです、メインじゃないんです。答えながら、ああ、ほんとにそうなんだな、って思ってた。わりとうまく自分のことを表現できたんじゃないかな、って自己満足。
 でも、彼に、メインって何? って訊ねられて、答えられなかったのよね。私としたことが、だめじゃない、って情けなかった。でも、あれから考えて、メインってたとえば、大地震がきたときに、まっさきに私のところに来てくれるひと、そういう存在なんじゃないかな、って思った。そういう存在がいないってことね、自分から手放したんだから悲しむ権利すらないと思うんだけど、いないってことは事実よ。それがいまはひたすらに痛い。
 でもね、メインもオプションも何を基準にするか、なのよね。それもまたひとつの真実だな、とも思う。
 目に見えるものだけじゃないってこと。
 まあ、でもとにかく、いまはめちゃくちゃスペシャルなオプションを目指してもいいのかも。すてきなオプショナルツアーにようこそ、なんていうのも楽しいでしょ。

 彼女は笑って、それから私に、じつに真剣にあることを提案し、今年の目標にしなさいよ、そしてそれがだめだったらきっぱり別の道をゆくのよ、と言った。

 私はうなずいたけれど、目標達成の自信はまったく、ない。

 ある美しいシーズンが人生にあったとして。過去にそういうシーズンがあったとして。

 そんな経験があったことを幸運だったと受けとめるか、それとも、もう二度とないのだと絶望するか。

 私はどちらだろう。

 そんなことを考えている。

 暗いわけではない。

 これほど友人に恵まれたシーズンはそれこそ、いままでの人生になかったように思う。こんな私を好きだと言ってくれるひとたちがいる。男性も女性も。ほんとうにときどき、うそみたい、って泣きそうになるほどに。

 それぞれとの距離はもちろん異なるけれど、私は、私なりに、私を求めてくれるひとたちを愛したいと願う。博愛という言葉とは無縁のところにいるけれど、自分を必要としてくれるひとたちに対する愛情なら枯れたことがない。まだまだ湧き続けている。それが唯一のすくい。

 けれど本音は、愛したい、よりも、つよく愛されたい。

 写真は、3週間以上も咲き続けている薔薇。たいせつな人からいただいたものだから、たいせつにして、あたたかな部屋ではなくて階段の踊り場に飾っているけれど、それにしても、こんなにながい間、こんなに美しい。薔薇もひとの想いをうけとめるのだろうか、たいせつに想っているから、ながく美しい姿を見せてくれるのだろうか。

 タンゴを流しながらこの原稿を書いていて、いま「VIDA MIA」が。

 私の命というタイトルの、かなしくせつない愛の曲。その世界にすべてをゆだねて踊りたいな。

 

*雪、雪景色のある記事をいくつか。

◾️2016年11月24日◾️自尊心と初雪と

◾️2011年5月6日■新川和江の美しくきよらかな悲しみ

◾️2011年2月15日◾️強く存在するもの

◾️2011年1月17日◾️好きなものを好きだと言う

 

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